医療あれこれ

2012年5月アーカイブ

miki.jpg

 以前にも少しふれましたが、内科医の祖先は神々の仕業によって発生した病気を「祈とう」によって病気を治そうとする「祈とう師」であったのに対して、外科医の祖先は刃物を使って仕事をする散髪屋さんでした。そこで床屋外科という呼び名が生まれてくるのです。本当のことは定かではありませんが、散髪屋さんの三色のサインポールは理髪師が外科医を兼ねていた名残だと言われたりします。つまり赤は動脈、青は静脈、白は包帯をあらわしているというのです。しかしこの説は少し矛盾があります。血管には動脈と静脈があることが明らかとなってきたのは、医療の歴史(9)で説明したウィリアム・ハーヴェイが血液循環を明らかにした17世紀になってからのことです。一方、三色のサインポールができたのは13世紀のイギリスだとも言われており、歴史的に一致しないことがいくつかあります。

 ところで中世には、理髪師兼外科医が職業化されてきました。当時、病気の原因となる悪い血液を取り去ってしまうという目的で瀉血(しゃけつ)という治療法が行われていました。体から血液を抜き取るためには刃物で体に傷をつけて出血させることが必要で、これは正しく外科医の仕事だったのです。しかし時代の経過とともに、このように内科医の下働きのような仕事だけをする外科医ではなく、次第に簡単な手術をしたり、骨折の治療や出産の介助などをするなど、専門的な外科医が生まれてきます。

 そもそも今の医学・医療を考えると、「外科」と「内科」はその名前の「内」と「外」が逆ではないのかと思われないですか。つまり内科医は自分で刃物を使って病気の人の内側を見ることなく治療を行います。つまり外側から治療をしているにもかかわらず治療法の名前は「内科的」治療といわれます。それに対して、外科医は刃物を使った手術で直接、病気の人の内側を見て、悪い部分を切り取ったりつないだりして病気を治します。内側に直接手を下しているにもかかわらず、その治療法の名前は「外科的」治療といわれているという矛盾があります。これは歴史的な事実によるものだと思います。それは大昔、刃物を使って治療をする治療はとても体の内側の病気に対応できなかった。刃物は体の外側にできた腫瘍を切り取ったり、傷の治療にしか使うことができなかったのです。体の内側から発生したと「診断された」病気は、外科医ではなく内科医の担当でした。昔は、ほとんどの病気治療は内科医の仕事だったと思われます。

 いずれにしろ、手術という外科医の仕事が科学的、安全に行われるようになり、外科と内科が対等になるのは、もう少し時代が下ってからになります。


甲状腺クリーゼ

thyroid.jpg 甲状腺クリーゼとは、基礎疾患に甲状腺ホルモンが過剰になる甲状腺機能亢進症があるのに、治療されていない場合や、病気のコントロールがあまりよくない時などに体に強いストレスがかかると、突然起こる難病です。甲状腺機能亢進症の治療が突然中止された時にも起こります。また、甲状腺のコントロール不良な状態で外傷や手術を受けたり、妊娠・分娩などを契機に発症することもあります。

 症状として、38℃以上の発熱、けいれんや意識障害などの神経障害、1分間に脈拍が130回以上になる頻脈、不整脈、心不全などの症状が出現します。治療が遅れると死に至る重症の状態です。

 過剰な甲状腺ホルモンの作用に対する体の代償機能が破綻してしまい、いろいろな臓器の障害が起こるのですが、詳しい機序は不明で、厚生労働省は難病の一つに指定しています。これまで全国で約1500人の患者がいると言われていましたが、詳しい実態は明らかにされていませんでした。

 今回、和歌山県立医科大学の赤水教授らのグループ(内分泌学)が、大規模な調査を行い、発症実態を明らかにしたことが5月17日付の新聞で報道されています。それによると、2004年から全国の医療機関を対象とした調査が5年間かけて実施されました。その結果、国内での発症数は年間150人以上で、死に至る率は10パーセントを越えることがわかりました。また、発症の要因として、甲状腺疾患の治療中断や感染症の発病が引き金になるほか、強いストレスも関係していることが突き止められました。

 バセドウ病などの甲状腺機能亢進症で治療を受けている人は、しっかり甲状腺ホルモンをコントロールして、独断で治療を中断しないようにすることが重要です。

不眠症

sleep.jpg 仕事が忙しいなど、十分な睡眠時間がとれない人が増加しています。一方で、時間的余裕があって、床に着いているのに寝付けなかったりして調子が悪いと訴える人がいます。両方とも睡眠不足ですが、通常「不眠症」と言われるのは、後者の方、つまり床に着いている時間は長いのに、十分な睡眠ができず、昼間の眠気や脱力感などがある人の状態のことです。右の図でも明らかなように近年、ストレス社会の影響があるのでしょうか、不眠症の発症は増加傾向にあります。

 不眠症のタイプは大別して、① 床に着いているのになかなか寝付けない「入眠障害」、② 一度は寝付いてしまっても23時間で目が覚めてしまう「中途覚醒」、③ 朝早くに目覚めてしまう「早朝覚醒」、さらに、④ ぐっすりと眠れない「熟眠障害」の四つに分類されます。「睡眠はできていますか?」とお聞きしたとき、睡眠時間つまり床に着いている時間が十分あることから「大丈夫です」と返答される方でも、実はこれら四つのタイプのうちいずれかの不眠症であることも意外に多いと思われます。

 不眠症の原因は、暑さ寒さや部屋の明るさなどの環境的要因や、悩みごとやイライラなどの精神的要因、また痛みやかゆみなど実際の身体的要因、さらにコーヒーなどのカフェインやアルコールが原因である薬理学的要因が考えられます。前回と前々回にご紹介した「むずむず足症候群」や「概日リズム障害」(次の記事参照)の他、少し前から鉄道の運転手さんなどで問題になっている「睡眠時無呼吸症候群」は明らかな不眠症の原因疾患です。ちなみにゴールデンウィークに長距離バスで大事故になった事例のバス運転手さんは「不眠症」ではなく、「睡眠時間の不足」だろうと思われます。

 不眠症は「うつ病」の主要症状の一つですが、逆に不眠症があると「うつ病」発症のリスクが高まるという報告もあります。また、高血圧や糖尿病、メタボリックシンドローム発症率とも関係することが明らかにされています。不眠症を放置すると問題となる病気が発症する誘因となることは明らかで、適切な治療が望まれます。生活習慣改善とともに、先に説明した不眠症のタイプに応じて睡眠導入剤や抗不安剤を服用してもらうことが大切です。

むずむず足症候群

TH_LIFD026.JPG 夕方や夜になると、足が火照る、足に虫がはっているような違和感を感じる、しかし足を動かすとこれらの症状が改善するといった症状はありませんか? このような方は「むずむず足症候群」、正式病名として、下肢静止不能症候群(レストレス・レッグス症候群)といわれる病態である可能性があります。

 「むずむず足症候群」の症状は、①足を動かしたいという異常感覚がおこる、②安静にしていたり、横になったりすると症状が増悪する、③足を動かすと症状がよくなる、④症状は夕方や夜になると増強する、などがあります。日本人では3~5%の発症率で、男性より女性の方がやや多く、年齢を重ねるにつれて増加してきます。

 原因には、ドーパミンというホルモンが作動する神経経路の障害や、鉄分の不足が関連するとされています。このため、同じくドーパミン不足によって発症するパーキンソン病や、鉄不足が原因の貧血患者さんにも同様の症状が見られることがありますが、これらの原因疾患がない人の場合の方が多いようです。

 夜間、足の症状で睡眠の障害がおこることから、昼間の眠気や、疲れた感覚があり、日常生活に支障がでることが大きな問題となります。そこで「むずむず足症候群」に対して、睡眠障害への対策と日常生活を改善することを大きな目的として治療が行われます。

 ドーパミン関連の新しいお薬があり、これの服用を開始してから1週間目でも症状が改善するという治療成績が発表されています。当院でもご相談をお受けしますので、もし気になる症状があるようでしたらお申し出ください。

time.jpg 人の体の中には時計があり、一日の生活リズムをコントロールしています。といってももちろん本当に機械の時計がセットされているのではありません。その機能の中心は脳内にあって、時計遺伝子と呼ばれるタンパク質の量が増減することにより、一日の生活リズム(概日リズム)が刻まれています。

 体内時計は脳内に存在するだけでなく、体中のいろいろな臓器に存在することも解っています。一日の生活リズムにおいて、食事をすれば消化管が働き、運動すれば筋肉を使うといったように、その人の活動にあわせて体内時計が効率的に働いているのです。

 概日リズムの乱れが不眠症の原因にもなります。例えば海外旅行での「時差ぼけ」や夜勤で交代制勤務をしている人の睡眠障害がこれにあたります。

TH_TREH021.JPG さてこの度、膀胱にある体内時計が、排尿のリズムを調節していることが、京都大学や兵庫医科大学の研究チームにより解明されイギリスの科学雑誌に発表されました。腎臓で作られた尿は袋状の膀胱にたまり、これが一杯に膨らんだとき人は尿意を感じてトイレに行きます。しかし排尿の回数を日中と夜間とで比べると、夜間の排尿は多くなりません。これは体内時計の作用で、昼間は膀胱が縮んで、尿をあまりためないため排尿回数が多いのですが、夜間は膀胱が縮まず尿を多くため、排尿回数が少なくなり十分に睡眠ができるようにしているということです。このリズムが崩れたとき夜尿症(おねしょ)や夜間の頻尿がおこると考えられます。報道によると、研究チームの兵庫医科大学泌尿器科学の兼松准教授は「新しい薬や治療法の開発につなげたい」と話しているそうです。