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甲状腺クリーゼ

thyroid.jpg 甲状腺クリーゼとは、基礎疾患に甲状腺ホルモンが過剰になる甲状腺機能亢進症があるのに、治療されていない場合や、病気のコントロールがあまりよくない時などに体に強いストレスがかかると、突然起こる難病です。甲状腺機能亢進症の治療が突然中止された時にも起こります。また、甲状腺のコントロール不良な状態で外傷や手術を受けたり、妊娠・分娩などを契機に発症することもあります。

 症状として、38℃以上の発熱、けいれんや意識障害などの神経障害、1分間に脈拍が130回以上になる頻脈、不整脈、心不全などの症状が出現します。治療が遅れると死に至る重症の状態です。

 過剰な甲状腺ホルモンの作用に対する体の代償機能が破綻してしまい、いろいろな臓器の障害が起こるのですが、詳しい機序は不明で、厚生労働省は難病の一つに指定しています。これまで全国で約1500人の患者がいると言われていましたが、詳しい実態は明らかにされていませんでした。

 今回、和歌山県立医科大学の赤水教授らのグループ(内分泌学)が、大規模な調査を行い、発症実態を明らかにしたことが5月17日付の新聞で報道されています。それによると、2004年から全国の医療機関を対象とした調査が5年間かけて実施されました。その結果、国内での発症数は年間150人以上で、死に至る率は10パーセントを越えることがわかりました。また、発症の要因として、甲状腺疾患の治療中断や感染症の発病が引き金になるほか、強いストレスも関係していることが突き止められました。

 バセドウ病などの甲状腺機能亢進症で治療を受けている人は、しっかり甲状腺ホルモンをコントロールして、独断で治療を中断しないようにすることが重要です。

 前回、甲状腺ホルモン(T3T4)の話をしましたが、これとは全く別に甲状腺のC細胞という場所から分泌されているホルモンが「カルシトニン」です。カルシトニンは血液中のカルシウム濃度が上昇すると分泌され、カルシウム濃度を下げるように働きます。「カルシウムが減ると大変!」と思われる方もいるかも知れませんが、カルシウム濃度が下がるのは血液中のことであって骨のカルシウムが減るのではありません。血液中のカルシウムを下げる機序は、一つは腎臓から尿へカルシウムが排泄されるのを抑制することですが、もう一つ骨にカルシウムを取り込んでいく作用が重要です。つまり骨の形成を促進し骨を強くする作用を持っているのです。

 カルシトニンとともに血液中のカルシウム濃度や、骨のカルシウム量を調節する重要なホルモンに「副甲状腺ホルモン(PTH)」があります。副甲状腺は上皮小体ともいい、基本的には甲状腺の上下左右に4つ存在します。ここから分泌されるのが副甲状腺ホルモンで、血液中のカルシウム濃度を上昇させる作用があります。カルシトニンとは逆に腎臓から尿へカルシウムが排泄されるのを抑制し、骨から血液中にカルシウムを汲み出してしまいます。副甲状腺ホルモンが過剰に作られる副甲状腺機能亢進症では、骨からカルシウムが抜け出してしまい骨折しやすい状態になります。

CaPTH.jpg 右の図のようにカルシトニンと副甲状腺ホルモンはカルシウムの動きに対してお互いに拮抗的に働いているのです。骨からすると、カルシトニンのほうがカルシウムを増やしてくれて、骨を強くしてくれるので強力な味方になります。骨の量が減ってしまう「骨粗鬆症」という病気がありますが、この治療薬としてカルシトニンをお薬にした「カルシトニン製剤」が作られています。

 ところで歳をとるにつれ骨のカルシウムが減ってくるので、牛乳を飲んだり小魚をよく食べるなど、カルシウムを補給する必要があることはご存じの通りですが、いくら口からカルシウムを食べたとしてもそれが腸で血液中に吸収されなければなりません。ここで重要になるのがビタミンDです。ビタミンDは皮下脂肪などの脂肪を原料として生成されますが、この作用を活性化するために日光の紫外線が必要になります。最近、アメリカの白人は皮膚ガンになることを恐れて、日光に当たることを避ける人が多くなってきたそうですが、この人達は普通に日光に当たる人に比べてビタミンD欠乏症の発症が2倍であるという報告がありました。

 話の主題がずれてしまいましたが、骨粗鬆症の予防には、食事に気を付けること以外にできるだけ外出することが必要であるのは間違いありません。

 気管の前でのどぼとけの下に蝶ネクタイのように存在する甲状腺。このホルモン産生臓器から分泌される主要なホルモンが甲状腺ホルモンです。甲状腺でチロシンというアミノ酸分子にヨウ素が結合したものですが、ヨウ素の数によってT3T4という2種類のホルモンがあり、臨床的に血液で検査するときは体内で直接作用するフリーT3、フリーT4として測定します。その分泌は下の図のように脳下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)によって調節されています。もしT3,T4が多くなると、フィードバック機構によって下垂体からのTSHが減少してT3,T4を減らすようになります。

T3T4.jpg 甲状腺ホルモンが異常に増加している病気にバセドウ病がありますが、このフィードバック機構によって甲状腺刺激ホルモン(TSH)が減少していることが特徴的に観られます。

 甲状腺ホルモンの作用は、体の中の代謝を維持し、活性化させるものです。全身の組織でエネルギー産生量を増加させ、細胞の呼吸を促進するため酸素の消費が増加します。エネルギー源として血液中のブドウ糖、つまり血糖値が上昇しますが、それに関連して脂肪の分解が進みます。その結果、血液中のコレステロールは減少してきます。このためバセドウ病などで甲状腺ホルモン(T3,T4)が増加しているとコレステロールは低下し、逆に甲状腺ホルモン(T3,T4)が低下している甲状腺機能低下症ではコレステロールは増加するのです。

 それでは脂質異常症で血液中のコレステロール値が高くて、お薬での治療が必要な人の甲状腺ホルモンは減少しているのでしょうか。ほとんどの脂質異常症は甲状腺ホルモンと関係なく、小腸での脂肪の吸収や、肝臓での脂肪合成が高まっていることが原因で起こりますが、一部の高コレステロール血症には甲状腺ホルモンが関係していることがあります。

 実際、甲状腺ホルモン(T3,T4)の値には異常はないけれど、甲状腺刺激ホルモンがわずかに増加している潜在性甲状腺機能低下症では、高コレステロール血症が認められることもあると報告されています。潜在性甲状腺機能低下症は人口の1割以下ですが、年齢を重ねると増加すると言われています。

甲状腺の病気

甲状腺とは
のどぼとけのすぐ下で蝶々のような形をした臓器が甲状腺です。食物中のヨードを材料にして甲状腺ホルモン(T3、T4)が作られます。甲状腺ホルモンの産生量は脳の中にある下垂体という臓器から分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)によって調節されています。甲状腺ホルモンは体の新陳代謝を活発にし、神経・精神活動や身体活動を調節するためにはたらいています。
甲状腺ホルモンが多くなる
何かの原因で甲状腺ホルモンの産生量が多くなった状態を「甲状腺機能亢進症」といいます。このうち最も頻度の高いのが「バセドウ病」です。甲状腺ホルモンは体の代謝を高め精神神経を調節するホルモンですからバセドウ病になると体がやせてくる、暑がりでよく汗をかく、動悸がする、手が振るえる、イライラするなどの症状が現れます。さらに甲状腺が腫れ(甲状腺腫)、目が大きく飛び出してくる(眼球突出)という典型的な所見を認めるようになります。
バセドウ病の治療
甲状腺ホルモンの産生を抑えるお薬を服用します。そのとき血液中の甲状腺ホルモン(T3、T4)や甲状腺刺激ホルモン(TSH)の変化を観察していくことが大切です。場合によっては手術療法も考えられます。いずれにしても悪性の病気ではありませんから経過は良好です。
甲状腺ホルモンが少なくなる
バセドウ病とは正反対に甲状腺ホルモンがへる病気が「甲状腺機能低下症」で、最も頻度がたかいのが「橋本病」と呼ばれる甲状腺の慢性炎症です。症状もバセドウ病とは正反対で、寒がりで皮膚が乾燥し、無気力や集中力低下など精神活動性の低下があります。新生児の甲状腺機能低下症は「クレチン病」と呼ばれています。
橋本病の治療
甲状腺ホルモン(T3、T4)や甲状腺刺激ホルモン(TSH)の血液中の濃度を観ながら、甲状腺ホルモン剤を服用します。適正にコントロールしておけば恐ろしい病気ではありません。
甲状腺腫瘍
甲状腺にできる腫瘤の多くは「結節性甲状腺腫」という良性腫瘍です。甲状腺ホルモンが増加する場合と甲状腺機能が変わらない場合があります。悪性腫瘍もあり、中には進行が早く悪性度の高いものも含まれます。治療としては良性でホルモンに影響のないときはそのまま経過観察する場合から即刻、手術により摘出する必要がある場合までさまざまです。