アスピリン(薬品名はアセチルサリチル酸)という薬があります。昔から鎮痛薬や解熱薬として用いられてきましたが、服用している人のなかに出血症状が出現することがありました。その後よく調べてみると、アスピリンには止血に必要な血液細胞である血小板にあるシクロオキシゲナーゼ(COX)という酵素を阻害する作用があることが分かりました(右の図)。COXは血小板が固まって止血作用を発揮するのに必要なトロンボキサンという物質の生成に必要な酵素で、これがないと血小板は正常に機能しないため止血に作用しなくなることになり、アスピリンを大量に服用すると出血傾向がおこるという機序が明らかになったのです。話がややこしくなりましたが、アスピリンのこの副作用ともいうべき血小板機能抑制作用を逆に利用して、今では少量のアスピリンを、血管の中で血液が固まらないようにする、つまり血液をサラサラにする目的で投与するようになり、脳梗塞や心筋梗塞など血栓で血管が閉塞して起こる病気の予防に用いられています。
このアスピリンが大腸ガンの発生を予防することが数年前から報告されていました。詳しい機序は明らかになっていない部分もありますが、どうも大腸ガンの中には先に説明したCOXを作っているものがあり、これをアスピリンが抑制して大腸ガンを予防しているようです。さらに昨年になって、アスピリンは大腸ガンだけではなく、食道ガン、胃ガン、膵臓ガン、肺ガン、前立腺ガン、さらに脳腫瘍の発症も減少させるという報告がなされ話題になっています。ただし詳しいことの解明はまだまだこれからですし、初めに説明したアスピリンによる出血という作用もありますから、むやみに服用することは避けるべきです。
ところで、「頭痛にバファリン・・・」というCMで有名なバファリンという薬。これは市販薬で、医師の処方せんがなくても薬局で購入することができますが、バファリンはもともとアスピリン製剤です。現在発売されているいくつかのバファリン製品にはアスピリンの代わりにアセトアミノフェンなど他の物質が主成分になっているものがありますが、アスピリンが主成分のものもあります。もし痛み止めとして薬局で市販薬のバファリンを購入されるのでしたら、薬剤師さんによく相談して適切なものを選んでもらって下さい。もちろん最初から市販薬を購入されるのではなく、まず医院を受診して下されば診察をして適切な処方せんを作成するご相談をさせて頂きます。

右の図のようにカルシトニンと副甲状腺ホルモンはカルシウムの動きに対してお互いに拮抗的に働いているのです。骨からすると、カルシトニンのほうがカルシウムを増やしてくれて、骨を強くしてくれるので強力な味方になります。骨の量が減ってしまう「骨粗鬆症」という病気がありますが、この治療薬としてカルシトニンをお薬にした「カルシトニン製剤」が作られています。
「ペスト」は、ペスト菌が原因でおこる病気です。現在の日本では感染症法で最も危険な一類感染症に分類され、感染者を隔離して治療することと定められています。もともとはネズミに流行するものですが、感染したネズミの血を吸ったノミに刺された人に感染が広がります。かつて感染者は皮膚が黒くなり死に至ったことから「黒死病」と呼ばれていました。現在では抗菌剤の投与が有効で、適切に治療を行えば後遺症を残すことなく治癒しますが、抗菌剤がなかった昔は致死性が高く恐れられていました。そもそもペスト菌が原因で流行するということも解らなかったわけですから、多くの人が「ペスト」で命を落としました。