医療あれこれ

高齢者は前糖尿病から糖尿病へ進行しにくい?

 先日この項で、前糖尿病は糖尿病予備群で、糖尿病へ進行していくことに注意が必要であるという話題をご紹介しました。特に糖尿病の合併症で認知症は前糖尿病の状態でも発生しやすいということでした。認知症というと高齢者で問題となるのはいうまでもありませんが、そうすると高齢者の前糖尿病はさらに気を付けなくてはいけないことになります。しかしこの問題についてもアメリカから驚くべき論文が公開されています。それは、前糖尿病の高齢者が糖尿病を発症する確率は低いというのです。

(Selvin E et al. JAMA Intern Med.

Published online February 8, 2021. doi:10.1001/jamainternmed.2020.8774)

 アメリカのジョンズ・ホプキンス大学公衆衛生大学院のElizabeth Slevin氏らの研究で、一般市民を対象とした動脈硬化のリスクに関する研究に参加した人たちのうち高齢者(平均年齢75) 3412人のうち最終的に2495人について5年間経過観察して結果を解析したのです。

ヘモグロビンA1c 5.76.4%とわずかに増加している群を前糖尿病と定義した場合、この群からヘモグロビンA1c 6.5%以上の糖尿病に進行した例は9%だったそうです。糖尿病あるいは前糖尿病の例に対しては担当医から適切な治療がなされることになっていたことから、前糖尿病であった人が5年後にはヘモグロビンA1c 5.7%未満に改善した人は13%いたそうです。また19%の人は5年後には死亡していました。

一般的に高齢者ではない前糖尿病の若年~中年の人は(適切な治療を受けないと)6年以内に三分の一は糖尿病が発症するといわれており、今回のような高齢者の前糖尿病が5年間の観察で糖尿病に至る率が9%というのは明らかに少数であると考えられます。つまり高齢者の前糖尿病は改善したり死亡したりすることにより糖尿病へ進行する例は少ないということです。

著者らは、前糖尿病は若年や中年の成人における糖尿病発症リスクであると一般に考えられていますが、高齢者の場合はこれが当てはまらないと述べています。