医療あれこれ

前糖尿病状態でも認知症になる

 これまでにも何度かご紹介しましたが、糖尿病の合併症ではよく知られる糖尿病性網膜症や糖尿病性腎症などは、糖尿病による細小血管の障害が基礎にあり、また心筋梗塞や脳梗塞などの大血管障害が重大な合併症となります。これらの血管障害だけではなく、糖尿病の人はガンになりやすいことや、認知症との関連を示す研究報告が多くみられるようになりました。特に認知症では、糖尿病による血管障害に関連した血管性認知症が発症することが容易に想定されますが、アルツハイマー病などの血管障害によらない細胞の変性による認知症が知られるようになっています。

 さらにこのほど血糖値は高いけれど糖尿病の診断基準にあてはまるような糖尿病が発症した状態には至ってはいない前糖尿病においても認知症になりやすいという論文が報告されています。

(Garfield V. et al Diabetes, Obesity and Metabolism 19 Jan, 2021)

 前糖尿病は一般的に糖尿病予備群とも呼ばれ、若年者から中高年においては糖尿病発症につながるリスクが高いと考えられています。具体的に空腹時の血糖値が110125 mg/dL、ヘモグロビンA1c 6.06.4%の人があてはまります。原因としては血糖をコントロールするインスリンの量は減少していないけれど、その効果が十分ではない状態であるインスリン抵抗性が考えられます。インスリンの作用が十分でないため、高血糖に対して膵臓からは多くのインスリンが生成、放出されるようになり、前糖尿病状態となっていきます。この時、インスリンの量が高い状態が続くことにより脳のダメージが進行すると考えられています。

糖尿病関連で認知症発症を予防するためには、前糖尿病の状態で対策を立て糖尿病に至ることを予防することが大切です。このため、体重オーバーの人は減量をする。食事療法、運動療法を積極的に取り入れるなど糖尿病発症を予防することが求められます。また逆に、物忘れをするなどの認知症の発症が想定される症状があればこれを見逃さず、より強力的に糖尿病治療を施すことが必要となります。