医療あれこれ

医療の歴史(139) 150年前のワクチン接種証明書

  昨日(411)の読売新聞に現在、松江市歴史館で開催されている「明治時代のワクチン接種」という企画展で150年前に発行された天然痘ワクチンの接種証明書が展示されているという記事がありました。天然痘(痘瘡)は天然痘ウイルスの感染で発症し18世紀までは不治の病で日本でも致死率40%以上といわれていました。江戸時代の日本人の平均寿命が3040歳と短命であったのは10歳までにこの天然痘で死亡する子供が多かったためとされています。1796年イギリス人医師ジェンナーが牛の天然痘である牛痘の膿を接種して発症を予防するワクチン(種痘法)を開発し、これがきっかけで制圧され1980年世界保健機関(WHO)は天然痘撲滅宣言が出されています。

(このことは本項でも2013 12日付医療の歴史20および2016313日付医療の歴史84でご紹介していますのでご参照ください。)

 読売新聞によると、この企画展で公開されているのは、1875(明治8)の「接種証」で、当時、明治政府が当時国民に呼びかけていた種痘が済んだことを証明するもので、松江藩の足軽だった家の子孫が松江歴史館に寄贈した資料に含まれていたそうです。明治政府は天然痘の蔓延対策に種痘を広めようと接種を済ませた人にこのような証明書を発行して全ての人が種痘を受けるように画策していたと記事は指摘しています。しかし人々は「種痘を受けても効き目があるかどうか分からない」、「種痘を受けると牛になる」などととんでもない噂に惑わされて恐れられ、政府は対応に苦慮していたのでしょう。

 言うまでもなくこの記事をみてほとんどの人は現在のコロナワクチン接種問題について思いつかれるでしょう。少し感染者が減って規制を緩和すると再び感染が広がってしまいますが、コロナ感染を抑止するコロナワクチン接種は1回目、2回目は80%の接種率でしたが、3回目は45%程度と低下しています。特に2030歳代のワクチン接種率は20%台です。若い人のインタビュー回答の中には、「ワクチンの副反応が大変そうだ」とか「副反応で苦しむならコロナにかかったほうが楽だ」という人までいました。こうなると明治時代の人が「種痘を受けると牛になる」と言ったレベルの話にも聞こえてきます。私たちができることで一致協力して対応していきたいと考えます。