医療あれこれ

ロボット手術は進歩するか

 手術の担当医が直接受診者の体に触れることなく、モニター画面を見ながらロボットアームを操作して手術をおこなうのがロボット手術です。2010年以降、日本で導入され普及し現在全国の病院で350台以上のロボットが設置されています。その手術用ロボットの大半はアメリカの医療機器メーカーが開発・販売している「ダヴィンチ」という3億円以上の価格が設定された高額医療機器ですが、これまで開発に伴う特許があり一社の独占となっていました。しかし昨年、この特許期間が切れたことから他社の開発・販売が進み本年以降急速に普及することが見込まれます。

 最初にこのロボットを導入し手術が実施されたのは前立腺ガンの腹腔鏡的摘出手術だったことから、前立腺や腎臓のガン治療など泌尿器疾患に用いられている例が多いのですが、食道や胃のガンあるいは婦人科疾患などの治療についても医療保険による治療もおこなわれています。さらに今後、保険診療できる適応疾患の増加が見込まれますが、このロボットを導入するための設備投資が高額であることから、全国の病院ではできるだけ医療費収入を増やしたいところです。しかし行政側は、同じ疾患でもこれまでの手術方法による治療に比べて明らかにロボット手術の利点が多いこと証明する根拠資料がない限り、医療保険によるロボット手術の診療経費を増やさない方針だそうです。このことからたとえ患者さんにとってロボット手術のメリットが大きかったとしても、この方法がさらに普及するかどうかについては明らかではありません。

 そもそもロボット手術に関するマスコミ報道をみると、いかにもロボットが全自動で手術するように誤解されているようですが、この医療機器を操作するのは専門的教育を受けた担当医です。医療者の手を介さずにロボットという機械が自動的に診療するのでは全くありません。もちろん直接人間がおこなう手術に比べてロボット手術は細部を詳細に処置することや、医療者のミスを軽減することには大きな利点があります。しかし高額の機器導入や専門職の育成などに費やす支出の大きさに見合うだけの効果があるかどうかについては疑問が残るところです。

 先進医療について考えると、以前からこの項でご紹介しているように、(2019325付け医療あれこれ他)AI(人工知能)を用いた医療についても同じようなことが言えます。AIというといかにも医師など多くの他の医療者なしにすべての医療が完結すると思われてしまいます。しかしAIを機能させるのは医療者という人間がその多くの経験を生かして収集した患者さんの基本的情報であることを改めて認識する必要があると思われます。