医療あれこれ

AIによる医療は簡単にできるのか?

 325日付の本項で「胃内視鏡と人工知能」という話題をご紹介しましたが、胃内視鏡の画像診断に限らず、医療全般において人工知能(AI)が大きな役割を占めるようになったという講演がありました。(慶應義塾大学医学部宮田裕章教授:「AI・人工知能が拓く次世代ヘルスケア ブームからスタンダードへの展望」第3AI・人工知能EXPO45日、東京ビッグサイト)

宮田先生が最初に紹介したのは、AIによる皮膚科における皮膚疾患の診断・解析例です。皮膚疾患の診断には最終的に熟練した皮膚専門医の確かな能力が必要なのですが、その段階をAIが受け持ってくれれば専門外の医療者にもある程度の皮膚疾患診療が可能になってきます。宮田先生は「AIが皮膚科の世界を変えようとしている」と述べています。

 しかしこの変化が一気に進むわけではないといいます。AIによる医療を進めるためには、これまでの多くの症例をAIに学習させた上で、新しい症例の診断をつけようとする流れです。そのためこれまでの症例を正確に詳しく解析する専門医の知識と技術が必要になってきます。そして膨大な数の症例を集積する必要があります。これまで巨大IT企業が利用してきたネット上のデータと比べて、医療の領域ではデータ利用が困難なことが指摘されます。例えば学習したAIとプロの囲碁棋士を対戦させると囲碁AIが勝ったというニュースがありました。これについては囲碁という限られた手段についてのデータ集積で学習してもらえば優秀なAIができ上ってきます。しかし医療ではいうまでもありませんが、より深いレベルでのデータ解析が必要なのです。

医療のデータを集積した記録にカルテがあります。大病院の多くは電子カルテが導入され症例の詳細な情報がファイルとして集積されてきています。一方で、紙ベースのカルテを利用している医療機関も多く存在します(末廣医院も紙カルテです)。問題はカルテの形態ではなく、その内容です。内容が詳細なデータなのか、正確なのか、を始めとして個々の症例における深いデータの解析がなされていまければなりません。そしてこれらを統一した形態で集積する必要があります。さらに当然ながら個人情報の扱い方にも注意を払う必要があります。

 医療分野においては、AIという機械を整備するだけでなく、それを活用するためのデータ集積、そのための広大なネットワークの形成が必要であると宮田先生は述べています。