医療あれこれ

2012年7月アーカイブ

睡眠時無呼吸症候群

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 睡眠時無呼吸症候群は、一晩(7時間)の睡眠中に10秒以上呼吸をしない状態が、30回以上ある、または睡眠1時間あたりの無呼吸が5回以上ある病気です。「いびき」をかくことが多く、十分な睡眠ができていないことから、「ぐっすり眠った感じがしない」と感じたり、昼間に眠気をもよおすことが多いなどの症状があります。

 睡眠時無呼吸がマスコミなどで初めて注目されたのは、20032月の新幹線運転手の居眠り運転だったことはご存知の方も多いでしょう。乗客800人を乗せ、時速270 kmで走行中の山陽新幹線の運転手が眠り込んでしまい、岡山駅を通り過ぎようとしたのです。この時は、自動列車停止装置が作動して、自動的にブレーキがかかり、けが人などはありませんでした。そしてその居眠り運転手さんを調べたところ、睡眠時無呼吸症候群で夜間に十分な睡眠ができていなかったことが判ったのです。

 睡眠時無呼吸の原因の一つとして肥満があり、喉など気道が狭くなっていることが多いので生活習慣病と密接に関連しています。また逆に、睡眠障害は心筋梗塞など重大な心臓・血管の病気の原因になります。そこで、夜間に呼吸が止まっている、よく「いびき」をかくなど、睡眠時無呼吸の疑いのある人は、しっかりと診断をつけて適切な治療をしておくことが必要です。

 診断としては、基本的には、無呼吸の専門外来がある病院へ一泊入院して夜間の睡眠状態を検査します。軽症の場合では治療は、生活習慣の改善、体重減少を心がけることから始まります。アルコールを多く飲む人は睡眠時無呼吸になりやすいことから、晩酌を減らすことも重要です。

 中等症~重症では、専門的な治療が必要になります。第一選択の治療法として、持続的陽圧換気治療(CPAP療法)があります。鼻マスクを装着して睡眠し、空気(酸素だけではありません)を一定圧で送り込み、睡眠中に喉の筋肉がゆるんで閉塞してしまうのを防ぎます。このCPAP療法により翌日から早速、昼間の眠気がなくなるなど明らかな結果がでる人もいます。しかし逆に、最初はマスクを着けて寝ることへの違和感など、慣れるのに時間がかかる人もあります。報告されているデータではCPAP療法を継続できる人は5080%と言われていますが、継続できれば、心臓・血管などの合併症が明らかに抑制されるとされています。

 そこで、いかにしてCPAP療法を続けてもらうかが問題となります。CPAPの機器に、使用回数や使用時間が記録されるICカードが付いているものが開発されるなど、できるだけ継続して使用してもらえるような工夫はなされています。また続けて受信しやすい環境をつくることや、専門医とかかりつけ医の連携なども必要になると言われています。


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 ロコモティブ・シンドロームとは日本語で言うと運動器症候群。手足の機能不全などによる運動器の障害により、介護が必要になる危険度が高い状態になることです。2007年に日本整形外科学会が新たに提唱した概念です。メタボリック・シンドロームが心臓や血管などの病気で要介護になるのに対して、ロコモーディブ・シンドロームは運動器の障害が原因で寝たきりになり要介護状態におちいります。「メタボ」に対して「ロコモ」というわけです。

 ロコモティブ・シンドロームの原因としては、大きく分けて2つのことが考えられます。第1番に、運動器自体の病気がある場合で、例えば変形性膝関節症で膝の痛みがあって体を動かしにくい、あるいは関節リウマチで多くの関節の痛みや変形があり体を動かしにくい、などさまざまな病態が含まれます。2番目の原因は、病気ではなく、年齢を重ねることによって筋力低下や身体を動かす速度が遅くなることです。2番目の場合、たとえ病気ではなくても、体のバランスを崩して転倒しやすい状態で、骨折をおこす原因となってしまいます。

 現在の日本では寿命が延び、いかに健康に老後の生活を送ることができるかが問題となっていますが、日常の生活動作がロコモティブ・シンドロームが原因で制限されると、生活の中で自立度が低下してしまいます。日本整形外科学会では、次の7つの項目のうち、ひとつでも当てはまれば「ロコモ」である心配があるとしています。

            1. 片脚立ちで靴下がはけない

            2. 家のなかでつまずいたり滑ったりする

            3. 階段を上がるのに手すりが必要である

            4. 横断歩道を青信号で渡りきれない

            5. 15分くらい続けて歩けない

            6. 2 kg程度の買い物をして持ち帰るのが困難である

            7. 家のやや重い仕事が困難である

 いかがですか?思いあたることがあれば、ロコモーション・トレーニングを始めるべきだと日本整形外科学会は説明しています。片脚立ちを左右1分間づつ13回行う。椅子に腰かけるように、お尻をゆっくり下ろして立ち上がる動作(スクワット)を56回繰り返す。そのほかラジオ体操やウォーキングをするなどの運動が推奨されています。

(日本整形外科学会のホームページに詳しく説明されています)


久山町研究

 福岡県のほぼ中央部、福岡市に隣接した場所で、周囲を山に囲まれた緑豊かな久山町ところがあります。久山町研究とは、九州大学医学部第二内科が、脳出血の原因を究明するため、町民の人全員を対象として臨床研究をし、多くの優れた成果を発表しているものです。

 臨床医学は、理屈では解っていても本当にそれが事実なのかを調べるためには、同じ条件で生活する人たちを対象とした臨床研究が不可欠です。久山町研究は日本においてしっかりとした方法論で成果を挙げている最も有名な臨床研究の一つです。

 1961年にこの研究は始まりましたので、50年経過したことになります。1950年代、1960年代当時は脳卒中は日本人の死因で第一位でした。(612日付けで公開した医療あれこれ「肺炎が死因の第三位んになりました」の記事に厚生労働省が発表している死因の年次推移のグラフを示してありますので、参照してください。)昔は、「脳出血をおこした人は動かしたら危険だ。救急車で病院に運んでもいけない」といわれており、1961年もこんな時代でした。

今のように頭蓋骨の中を輪切りの写真で観察するCTスキャンやMRIがなかった時代ですから、脳出血と診断を確定するためには、患者さんが亡くなった後、死因を調べるための解剖(剖検といいます)をして、生前できなかった確定診断を行ったのです。

 何が原因で脳出血がおきるのかを調べたところ、高血圧が最も関連が深い危険因子であることが判りました。理屈から考えるとこれは当たり前のことのように思えますが、50年前は、今では当たり前の「血圧を測定する」という習慣もなかったそうです。そこで高血圧の治療を徹底して行うと、脳出血は減少する結果が得られ、今では当たり前の事実が証明されたのです。

 その後、高血圧治療は続けられましたが、1980年代の後半になると、脳卒中の発生頻度は減少しなくなりました。九州大学の医学者たちは、さらに他の危険因子を解析し、肥満や糖尿病、さらにコレステロールが多いなどの今で言う「メタボリックシンドローム」に当たる危険因子を究明して行ったのです。これら新たな危険因子は、脳卒中のうち、脳血管が切れておこる脳出血ではなく、脳血管がつまってしまう脳梗塞の危険因子であることが明らかとなりました。統計結果でも、脳卒中のうち脳出血は著明に減少しましたが、脳梗塞は増加しています。このように時代とともに発生する病気は変化していきます。

 久山町研究は、現在も続けられていて、認知症発症の研究や、遺伝子研究などにも発展しているそうです。私たちにおこる病気の原因がこれからも詳しく調べられ、新たな成果がどんどん発表されていくことが期待されます。