医療あれこれ

聴力が低下すると認知症になりやすい

 年齢を重ねると次第に聴力は低下してきますが、年齢と共にアルツハイマー型の認知症発症は増加してくることから、聴力低下が脳での認知機能低下に影響を及ぼすのではないかと推測されていました。世界でもっとも質の高い学術雑誌の一つであるランセットが主催する2017年の国際会議において認知症発症における危険因子の一つとして聴力障害のあることが示されています。しかし聴力と認知機能が直接関係しているのかどうかについてはこれまでは、必ずしも明らかな証拠となる事実が認められているわけではありませんでした。さらに徐々に聴力低下が進んできた人にとって、どうしても知りたい認知症発症を予防する直接の方法は明らかになっていませんでした。

 難聴になると脳を活性化するための刺激が得られにくくなることが想定され、脳領域のいくつかが萎縮してきます。このことは認知症発症に悪影響を及ぼすことが容易に想像され、難聴の状態を放置していると認知症のリスクが高まってくると考えられます。アメリカの国立聴覚・伝達障害研究所(NIDCD)によると、アメリカ人では6574歳の年齢層で約3人に1人、75歳以上の年齢層では2人に1人が、日常生活に影響を及ぼすレベルの重度の難聴を有すると推定されています。難聴は脳の構造的な変化をもたらすことが想定され、脳の活力を維持するためのインプットが得られない状態、つまり耳が遠くなり周囲の状況が変化していることに気が付きにくい状態になると、いくつかの脳領域が萎縮して認知症を発症する可能性があると指摘されています。70歳以上の高齢者2,413人(半数以上が80歳以上)を対象とした研究では、中等度~重度の難聴がある人では、聴力に異常がない人たちと比べて認知症の有病率が61%高いという調査結果が報告されています。

それでは難聴がある人において認知症を予防するためにはどうしたらよいのでしょうか。聴力の衰えを補う方法として補聴器を用いることが考えられます。ある研究結果によると、中等度~重度の難聴がある人のうち補聴器を使っていた人では、補聴器を使っていなかった人と比べて認知症の有病率が32%低く、認知症リスクは補聴器の使用により抑制できる可能性も示されています。

 しかし残念なことに難聴を抱える人たちの大半は、補聴器を使用していないという現状も知られています。聴力を診療する耳鼻咽喉科専門医は聴力低下の程度がわずかであっても問題があれば補聴器の使用をすすめます。しかし専門外の医療者は、少し耳が遠くなったという人の訴えに対しては、年齢による変化だから仕方がないなどと積極的な補聴器使用をすすめることが少ないという傾向もあるようです。

 耳が遠くなったと感じる御本人や家族など周囲の人も、ぜひ耳鼻咽喉科、できれば補聴器専門医を受診して認知症予防のために聴力の補正に努めていただきたいと思います。現在日本においては明らかな認知症増加傾向が指摘されていますが、このことに対する有効的な処置として補聴器使用による聴力低下への対応をすすめられることがと考えられます。