医療あれこれ

クマは冬眠しても糖尿病にならないの?

 「おいしいものをたらふく食べて運動もしないで寝てばかりいると糖尿病になってしまうよ」とよく言われますよね。食べ過ぎて運動しないと、「インスリン抵抗性」といってインスリンの働きが悪くなり高血糖状態になってしまうのは事実です。糖尿病を予防するための規則正しい生活習慣として、食事に気を付ける、適度の運動が大切であるというのは今更説明するまでもないでしょう。

 今回の話題は森のクマさんの生活習慣は大丈夫か?ということについてです。クマさんは秋から冬になる前には、大量の餌を食べてカロリーを蓄え冬の間は動かないで寝てばかりいるという生活を繰り返しているから糖尿病になってしまうのではないかと心配になりますよね。でも実際には春に冬眠から目覚めたクマさんは、よくのどが渇いて大量の水を飲み、体全体の不調になってやせ細ってしまうなどという話は聞いたことがないでしょう。

 クマの体には、生活が乱れていても「インスリン抵抗性」にならないような何らかのメカニズムがあるに違いない。これを究明すれば人間の糖尿病を予防して改善させる「新しい治療法の開発につながるかもしれない」と考えて、クマの冬眠と糖代謝の関係について研究した人がいました。米国ワシントン州立大学のBlair Perryという研究者です。その成果の一部が科学雑誌 iScience 921日号に発表されました。

 Perry氏らは、冬眠して寝ているクマさんを「おこさないように」麻酔をかけて採血し、体内のさまざまな物質の変化を観察したのです。その結果、クマのインスリンが効かなくなる「インスリン抵抗性」を避けてインスリンの感受性を良くする8種類のタンパク質が作用していることが発見されたのです。

これらの物質がどのように作用してクマのインスリン作用を改善しているか詳しいことはまだまだこれからの研究結果を待たなければいけません。しかしその詳しいことが明らかとなると、人間において糖尿病を予防して治療する新しい医薬品開発につながるかもしれません。

クマさんの生活を研究して人間の病気治療に役立てようという何かメルヘンチックな試みで、明るい医療の将来が期待できるようなたのしみな話題ですね。