医療あれこれ

インスリンを注射せずに投与する

 糖尿病には二つの型があります。通常、糖尿病と呼ばれているのは2型糖尿病で、β細胞で作られる糖をコントロールするホルモンであるインスリンがうまく作用しないことから血液中の糖分が増えてしまい、増悪するとβ細胞のインスリン生成が低下してきます。

 これに対して1型糖尿病は膵臓のβ細胞が免疫異常などの原因で破壊され、インスリンが生成されないため、治療には初めからインスリンの投与が必要です。頻度は通常の2型糖尿病は日本における患者数は950万人と推計されており、ほとんどの糖尿病は2型糖尿病です。これに対して1型糖尿病の患者数は1014万人と推計されており、糖尿病のごく一部を占めるのみです。

 1型糖尿病は上述のようにインスリンが生成されないためインスリンの投与がなければ患者さんは生きていけません。2型糖尿病の治療薬は新しいタイプのものも含めて様々な内服薬(のみぐすり)が用意されており血糖をコントロールします。これに対して1型に対するインスリンは使用可能な内服薬はなく注射することが必要で、食事などに合わせて体内で必要とされる時間に、腹部や臀部、大腿部などに注射する必要があります。通常、一日に数回の注射が必要ですが、何度も病院を受診することは不可能ですから普通は家庭内投与(自己注射)がおこなわれています。

 これまでにインスリンの内服薬を開発する試みが長年にわたっておこなわれてきましたが、現在はこれに成功はしていません。このたびカナダのブリティッシュ小レオンビア大学のPratap-Singh氏ら経口的にインスリンを投与する方法を動物実験の段階ですが開発したと学術雑誌Scientific Report 615日号に掲載、発表されました。

 この新しいインスリン製剤は、口から食道、胃へ飲み込むのではなく、口の中でなめて溶かして吸収させていくもので、頬の内側と唇の粘膜から少しづつ体内にとりこまれていきます。これまで開発が試みられてきたインスリン製剤は飲み込んでしまうので、胃のなかにとどまってしまったり、ほとんどの量が吸収されずに無駄になってしまったのですが、新しい製剤は24時間かけてゆっくりと薬効が現れてくるのだといいます。

 これまでのように注射器や針を使い捨てるのではなく環境にやさしいことや、製剤自体も安価であり医療費を削減することにもつながると研究者らは述べています。しかし現段階では動物実験で成功しただけの段階ですので、これから人に投与する製剤を作り出していくにはまだまだ多くのステップが必要ですが、近い将来、全ての1型糖尿病患者さんに用いられるようになることが願われます。