医療あれこれ

これから認知症は増えるのか減るのか

 「超高齢社会の日本では、認知症の人の数は急速に増加する」ということが当然のように受け入れられています。しかし欧米では逆に認知症の有病率・発症率が減少傾向にあるという研究結果が相次ぎ報告されているのです。その一つが本年312付の本稿でもご紹介したアメリカのミシガン大学における大規模研究です(今後、認知症は減少するのか)。これらの研究では、健康管理への動機付けや生活習慣病への生活指導などによって認知症が減った可能性が示唆されています。将来、日本においても適切に対応していくと認知症の患者数が減る可能性はあるのでしょうか。

「高齢化が急速に進む日本では、今後もしばらくは認知症患者が増加し続ける。そのため、多くの医師は、認知症の有病率が減るという海外の研究結果を懐疑的に見ているのが現状だろう」と国立長寿医療研究センター長寿医療研修センター長の遠藤英俊氏は述べています。日本では今後、人口の高齢化が急速に進むため、認知症者数もおのずと増加すると見込まれますが、何らかの医療的対応により発症を遅らせたり防ぐことができれば、有病率の伸びを抑えることは理論的には可能です。「これまで日本では認知症患者が増加する推計ばかりが大きく取り上げられ、生活習慣病や食事、運動、精神面に対する介入により、発症時期を遅らせられるかもしれないという視点は持たれていなかった。認知症の発症予防や進行を遅らせる方法を模索する必要がある」と遠藤氏は指摘しています。

認知症のリスク因子として挙げられているのは、年齢、頭部外傷、生活習慣病、喫煙、社会的・経済的要因、遺伝的要因、うつ病、難聴、視力低下などです。特に介入が可能なリスク因子である生活習慣病の中では、高血圧、糖尿病、肥満などが強いリスクとされています。「この1020年で、疾患予防が重要という認識が広まったことに加えて、高血圧や糖尿病をはじめとする生活習慣病を適切にコントロールできるように治療法が進歩している。リスク因子となる疾患への治療の成果が有病率の低下という結果につながったと推察できる」というのです。

具体的には運動指導は、心拍数110回/分程度の強度で30分以上の有酸素運動を週3回以上行うのが重要とされます。ただ運動するのではなく、考えながら運動をする習慣をつけてもらうのが理想というのです。さらに、食事指導は、「主食(米)に偏らず、積極的に野菜や牛乳・乳製品を摂取する食事を心掛けることが有用となります。緑黄色野菜や牛乳・乳製品、大豆・大豆製品、単色野菜、海藻類、果物、魚、芋、卵を多く摂取し、米や酒の摂取が少ない食事パターンの方が認知症の発症リスクを有意に低下させていたという、研究結果も報告されています。

どこまで徹底できるかはわかりませんが、医師や保健師、自治体、医師会などが協力して健康管理に対する啓発を続け、早期からの生活習慣病のコントロールに加え、食事への配慮、運動・知的活動の習慣付けを促せば少なくとも認知症の発症時期を遅らせることはできるのではないでしょうか。