医療あれこれ

今後、認知症は減少するのか

 認知症の発症は人口の高齢化に伴い増加すると一般的に考えられてきました。しかしこのたび、ミシガン大学における大規模疫学研究で、アメリカの認知症の有病率が低下しているという発表がなされました。 (Health and Retirement Study: JAMA Inern. Med. 2017; 177: 51-58)

これは2000年と2012年の認知症発症率を比較検討したところ2000年の認知症有病率11.6%に比べて2012年は8.8%と統計的に有意に低下というのです。その原因として、この研究期間の糖尿病、高血圧、肥満の割合は増加しているのに脳卒中の有病率には変化がないことから、適切な治療により心臓血管系の認知症発症リスクが改善されたからではないかと考えられています。さらに教育年数との関係をみると12年未満の教育年数のひとに比べて16年以上の教育年数をもつ人の方が認知症発症は4分の1に低下していることが判りました。アメリカでは日本のように国民健康保険の制度が行き渡っていませんので、高学歴あるいは高収入の人は認知症発症を予防する情報の理解力が高く、認知症発症率を低下させたのではないかと考察されています。

 それでは日本ではどうなのかといいますと、アメリカのように大規模な研究成果は公表されていませんが、アメリカに比べて国民皆保険制度が整備されておりアメリカに比べて認知症の抑制が期待できるのかもしれません。また認知症発症の頻度が高い年齢層は75歳ですが、現在の年齢層をみると大学教育を受けた人の数はまだ多くありません。しかし間もなく高レベルの教育を受けた団魂世代が認知症の好発年齢を迎えることになり、そのころには日本でも認知症の有病率は低下してくる可能性があるとも考えられます。重要なことは、単に高学歴ということだけでなく、教育経歴を生かして生涯、脳を使い続けることが大切です。つまりすべての高齢者が頭と身体を使って楽しむことのできる社会を作っていくことが、有効な認知症対策になることを示すものだと考えることができると思います。