医療あれこれ

肥満と肥満症

 肥満は、体中の脂肪組織に中性脂肪が過剰に蓄積した状態をいいます。肥満の診断基準としてよく知られているBMI(ビー・エム・アイ;体格指数 Body Mass Indexの頭文字)は、身長と体重から計算します。つまり体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)で算出され、日本ではBMI25以上なら肥満であるとしています。人口全体で肥満者の割合をみるとこの10年間で大きな変化はありませんが、40歳~50歳代の男性では1980年以降、増加の一途をたどっています。

obesity.jpg さて肥満が疾患なのか、あるいは疾患を発症するリスクなのか、については結論が得られていません。日本肥満学会では「肥満症」という疾患概念を提唱しています。これは肥満が原因となる健康障害を合併している、あるいはその合併が推定される場合で、医学的な方法を用いてでも肥満を解消することが必要な状態をいいます。具体的に「肥満症」の診断基準に必要な合併症を右の表に示してありますが、BMIなどで肥満があると考えられ、かつこれら11疾患の一つでも合併すると「肥満症」と診断するというものです。この「肥満症」を治療すると合併する健康障害の全てを改善あるいは治癒できる可能性があります。

 肥満になる原因の一つとして胎児期あるいは小児期における過栄養が考えられます。第二次世界大戦後、ひどい飢餓状態にあった母親から生まれた児童は成人後に肥満になりやすいという疫学調査があったり、出生時の体重が2,500g未満の低出生体重児は将来メタボリック症候群を発症するリスクが2倍以上あるという報告も見られます。また遺伝関係や、食事やストレスなどの生活環境の変化が代々伝えられるのではないかという考えが有力視されています。

 それでは肥満の治療はどうかというと、食事療法や運動療法など生活習慣の改善が基本です。食事療法では適切なエネルギーをバランスよく摂取することが必要です。その人の食習慣はおおむね7歳までに形成されますから、家族全体での取り組みが必要です。運動療法については、運動習慣のない人に肥満の人が多いといわれており、運動が重要なことはよくわかるけれどなかなか実行できないという場合が多いように思います。万歩計という器具の名が示す通り、1日1万歩という運動療法が推奨されています。

 治療というと薬物療法はどうかですが、肥満の治療薬はこれまでにも多くのものが開発されてきましたが、副作用も多く効果の面でも十分でなかったことから、現在保険診療で用いることができる薬剤は一つしかありません。しかも他の方法で改善がなく、合併症などから肥満改善がどうしても必要な場合に慎重に用いるというものです。代謝関係で新たなメカニズムが解明されてきた現在、新規の有効な薬剤が望まれるところです。

引用文献

春日雅人 肥満症とその成因;日本内科学会誌104、687

松浦文三 食事療法;日本内科学会誌104、723

加隈哲也 運動療法と行動心理療法;日本内科学会誌104、730

羽田裕亮他 肥満症の薬物療法;日本内科学会雑誌104、735