医療あれこれ

医療の歴史(8) 近代解剖学の夜明け~ヴェサリウス

 人体解剖学の研究は16世紀になって盛んになりました。その中心人物が解剖学の歴史上最大のビッグネームであるアンドレアス・ヴェサリウスです。

ヴェサリウスは1514年ベルギーのブリュッセルで代々医師であった家に生まれました。幼少の頃から動物の体の構造に興味を持ち、身の回りにいる動物を勝手に解剖していたそうです(現代では動物愛護法で許されることではありませんが・・・)。

成長してパリ大学医学部に進学したとき解剖学の講義を体験しました。ところが、前回、医療の歴史でも少し紹介したように、当時の解剖学は古代のガレノスが著した解剖学を何の疑いもなく解説するだけのものでした。実習は解剖学教授が直接行うのではなく、実習助手が形式的に内臓を取り出し、学生たちに指し示すだけのものだったそうです。当時、刃物を使って死体を切り開くことは下賤な作業と思われていました。ヴェサリウスはこれにがまんできず、子供のころからの動物解剖の体験を生かして、手際よく解剖してみせました。これが評価され、すぐに解剖学実習の助手に採用されたのです。

 彼はすぐに解剖の名手としての名声を得、23歳の若さでイタリアの名門パドヴァ大学の解剖学教授に就任することになりました。自ら解剖を行って学生たちに講義するとともに、解剖学を探求し、古代からのガレノス解剖の多くの誤りを指摘して行きました。どうもローマ時代のガレノスは猿などの解剖は自ら行っていましたが、人体解剖の経験はあまりなかったのですが、弟子たちや後世の人々がガレノスを解剖学の神様として祭り上げ、その理論が何百年も盲信されていたようです。vesalius.jpg

 1543年、ヴェサリウスは写実的なイタリア絵画を多く取り入れた大著「人体構造論(ファブリカ)」を出版します。(右は今でも解剖学書の序章などで紹介されているファブリカの挿し絵です。)正確な人体構造の知識を得た西洋医学はこの後、飛躍的な発展を遂げていくことになるのです。

 しかし、いつの時代も新しい真実を最初に述べた人は周囲から冷たい視線を浴びせられることが多いのですが、ヴェサリウスも例外ではなく、最後は不遇な生涯を43歳という若さで閉じてしまうことになりました。