医療あれこれ

医療の歴史(58) 病草紙

 平安時代の末期に「病草紙(やまいのそうし)」という絵巻物が作られました。これは当時の特にめずらしい病気や治療法などを集めて描いたもので、京都国立博物館など各地の博物館・美術館に保管されており、現在21の病態を描いたものが伝えられています。そのうち、現代病にも見られるいくつかをご紹介します。

yamai_sleep.JPG不眠の女

 不眠症には、寝付けない、夜中に覚醒する、早朝に起きてしまうなど色々ありますが、この絵の説明は「夜になれども寝入らるることなし。」となっていますので、入眠障害というタイプの不眠症と思われます。原因についての記載はありません。しかし何らかのストレスが原因にあり不眠症に陥っているのでしょう。不眠症は抑うつ状態など精神神経疾患の基本的な症状の1つで、当時からさまざまな精神的ストレスがあったことも想像されます。


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眼病の男

 眼が見えなくなった人に対して治療を行っている図です。おそらく白内障で視野が白濁して視力低下した人の水晶体(眼のレンズ)に針をさして治療しているところと思われます。この種の眼科的治療は当時からよく行われていたようですが、この絵に描かれた患者は最終的に視力を失ったという説明があり、にせ医療者の処置を受けてしまった可能性も考えられます。

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肥満の女

 両脇の人に支えてもらわないと歩けないほど太ってしまった女の絵です。何らかのホルモンの異常があった可能性がありますが、おそらく裕福な家の女性とみうけられますので、いわゆる生活習慣病で食べ過ぎや運動不足が原因となったとも考えられます。