医療あれこれ

医療の歴史(46) 日本最古の医学書

 日本で最初に著された医学書は799年、和気広世による「薬経太素」といわれています。和気広世は、奈良時代後期から朝廷に仕え楠木正成らと同様に勤皇の忠臣とされていた和気清麻呂の長男で、和気家は広世以後代々医家として継承されていきます。しかし和気広世の著した原本の内容は散逸してしまい、後世、室町時代か江戸時代に書き直されたものとされています。次に古い医書は、平城天皇の治世808年に、安部真直らにより著された「大同類聚方」で、100巻にも及ぶ大著でしたが散逸してしまいました。最近まで断片的に伝えられる内容が大同類聚方原本の一部であると考えられていましたが、現在では否定的な説が多く、後世の記述ではないかと考えられています。

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 原本の形を今に伝える最古の医書は、典薬頭も勤めた丹波康頼が928年に著した「医心方」です。原本は丹波康頼から宮中に献上され、永らく宮中の秘蔵書となっていたことから、時代の変遷による散逸もなく、そのまま現在に伝えられているのです。室町時代になって、丹波家とともに代々の医家代表であり当時の典薬頭であった半井瑞策に下賜されました。

 医心方の内用は、丹波康頼が隋や唐の医書120あまりを引用して書き上げられた30巻からなる医学全書です。その内容は、医師の心得、薬物の注意点から始まり、鍼灸に関すること、内科、外科、眼科、耳鼻咽喉科、産科、婦人科などあらゆる医学領域におよび、最終の第30巻には穀物、野菜、肉類などの健康食品にも触れられています。

 医心方の著述に引用された中国などの医書は、現在では散逸して存在しないものも多く、医心方は古代東洋医学の内容を知る上で欠かせないものとなっているそうです。(引用文献:酒井シズ 日本の医療史)

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