医療あれこれ

医療の歴史(22) 無菌手術の始まり

 医療の歴史(18)でご紹介しましたように、ルイ・パスツールにより微生物の自然発生が否定され、空気中の微生物が原因で腐敗が始まることが明らかにされました。それでは、手術などの後、傷口から化膿してくるのは侵入した微生物が原因であるのに違いない、手術時の消毒は術後の感染症予防につながると考えた人が現れました。その人はイギリスの外科医ジョセフ・リスター(18271912)です。

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微生物を殺すには煮沸することが手っ取り早い方法ですが、手術で患者さんの体を煮沸するわけには行きません。リスターは何か消毒剤として有効なものはないか、さまざまな物質を調べていたとき、ゴミの消臭剤として用いられていた石炭酸(フェノール)の存在に気づきました。ゴミからでる腐敗臭も微生物の影響に違いない。石炭酸は消毒剤として用いることができると考えた彼は、石炭酸を染み込ませた布を傷口にかぶせる方法で術後の腐敗を予防することに成功しました。その後、手や手術器具を石炭酸で消毒し、手術中には噴射器を用いて、石炭酸液を噴射しながら手術を行ったのです。その結果、それまでの手術では術後、傷口から化膿することが当たり前であったのに、化膿せずに傷口が治るという画期的なことが発見されたのです。リスターの業績は前回ご紹介した麻酔法の発達と相まって、以後の外科手術の様相を一変させることとなりました。

 その後、ほどなくして毒性の強い石炭酸より優れたヨードチンキなどの消毒剤が発見されました。手術器具の消毒も、高圧・高熱で行うという現代の器具滅菌法の基本となる方法が開発され、消毒したゴム手袋を使用して手術をするなど、現代における無菌手術の基本的スタイルが確立されて行ったのです。