医療あれこれ

医療の歴史(142) スペインかぜ

 新型コロナウイルス感染症は現在なお終息の兆しはありませんが、今から100年以上前、記録に残るインフルエンザ感染のパンデミックで最悪のものとされるスペインかぜが大流行しました。スペインかぜでは人類史上でも、ずいぶん以前に医療の歴史(6)でご紹介したペスト大流行における全死亡者数約2500万人をはるかに上回る5000万人~1億人以上の死者を出したとされています。また死亡者数累計でみる限り、コロナ死亡者は現在まで660万人とされていますから、スペインかぜ死亡者は現在のコロナ死亡者に比べてはるかに大多数でした。

スペインと国名がつけられていますが、最初の感染者とされるのがアメリカ合衆国の陸軍兵士で1918年3月4日に発熱、咽頭痛を訴えました。数日以内に同僚の兵士500人以上が罹患しアメリカ陸軍ファンストン基地に収容されました(下の図)

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当時アメリカは第一次世界大戦に参戦中で、アメリカ軍基地やヨーロッパに感染は拡大し、またたく間にフランス、イギリス、スペイン、ドイツからロシアまで到達しました。さらに中国、日本にまでも拡大したのでした。

日本では1918(大正7年)8月に大流行が始まりました。1918年8月から1919(大正8年)7月までの第1波、1919年8月から1920(大正9年)7月までの第2波、1920年8月から1921(大正11)7月までの第3波と3回のピークがあり、合計の患者数23804673人、死亡者数388727人にのぼったと内務省衛生局「流行性感冒」(1922)に報告されています。

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この資料の中では、スペインかぜの病原体は当時ウイルスであることは明らかにされておらずプファイフェル菌(インフルエンザ桿菌)と呼ばれる細菌とされていました。現在ではその後の研究からスペインかぜの病原体はインフルエンザウイルスH1N1型でA型インフルエンザであったとされています。右の図は「手当が早ければすぐ直る」と早期治療を呼びかけている内務省の予防宣伝ポスターです。当時から「うがい」の重要性がさけばれ、「マスク」の必要性が示されていました。とくにマスクは、6枚重ねにすることや布地の構造まで細かく書かれていたそうです。マスクはそれまで医療者が使用するものでしたが、スペインかぜをきっかけに一般人もマスクを用いることが普及するようになったそうです。

当時は当然スペインかぜに対するワクチンも治療薬もありませんでしたので、このパンデミックがどのように終息していったのかは明らかではありません。現在のコロナも早く終息の時が来ることを願うばかりです。