医療あれこれ

医療の歴史(137) 感染制御の父ゼンメルワイス

semmerweis.JPGのサムネール画像

 お産のあと数日に膣や子宮の感染で38℃以上の高熱がでる産褥熱という感染症があります。コッホやパスツールにより感染症の病態が解明されるより前の時代で病原微生物が医療者の手から出産直後の女性に感染するものであることが知られていなかった時代に、産褥熱の予防に手の消毒が必要であることを証明したのはハンガリー人の医師ゼンメルワイス (イグナッツ・フィリップ・ゼンメルワイス 18181865) です。

 ゼンメルワイスがウィーン総合病院産婦人科医師であったとき、産後に原因不明の熱病で亡くなる人が1割以上もいたのです。ある時、産褥熱で亡くなった患者さんを原因究明のための解剖中に誤ってメスで自分の手を傷つけた同僚の医師がその後、産褥熱と同様の症状で死亡してしまう事故がありました。このことからゼンメルワイスは産褥熱が何かは解らないけれど伝染性のもので発症するということに気がついたのです。予防のためには手の消毒が重要ですが、産褥熱は制御不能な原因不明の病気であると信じられていた時代に、消毒の必要性を述べても周囲からは全く認められませんでした。

 保守的な上層部から反対され失職したゼンメルワイスは、故郷のブタペストにある病院で産婦人科医として働いていましたが、彼の部署では医療者は手の消毒をおこない医療施設や器具についても消毒を徹底したのです。このことにより産褥熱の発症はほぼ完全に抑止することに成功し、ゼンメルワイスの所属する病院はハンガリー中の評判を得るようになりました。しかし学会全体から彼の説が認められるようになるにはもう少し時間がかかりました。医療者の手の感染が死につながる産褥熱を発症させていたという心理的抵抗感からすぐに受け入れられないこともあったのでしょう。