医療あれこれ

温泉療法の効能と注意

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 今、箱根の大涌谷で水蒸気爆発の危険性が高いと箱根ロープウェイの運航が停止されるなど、観光温泉地としての箱根を訪れる人が減っているという社会問題が新聞、テレビ等で報道されています。日本で有数の観光地である箱根が窮地にあることは大変残念なことです。

ところで温泉と医療の関係を考えると、「温泉療法」が思い浮かびます。日本では古来、湯治といって慢性疾患を持つ人が長期間、温泉地に留まって毎日温泉に入ることにより全身の状態を改善していく療法のあることがよく知られています。政府は、この温泉を利用した健康維持・増進をより有効で安全に推進することなども含めた「温泉法」という法律を昭和23年に制定しています。これは各地の温泉の定義や効能などの表示法を規定するとともに、入浴における注意や、日本ではあまり一般的ではありませんが温泉の飲用についての注意点などを細かく規定しているものです。その中で、温泉療法として温泉に入浴することを避けるべき温泉禁忌症を定めていますが、この度、この禁忌症を一部改定することが検討されています。例えばこれまで禁忌症に含まれていた「妊娠中の人は温泉入浴を避けるべき」という条項が削除される見通しである一方、悪性腫瘍をもつ人は以前から禁忌症に含まれたままになっています。

 交通機関や医療の未発達な過去においては、悪性腫瘍を患っている人が温泉地へ出掛けること自体がその人の身体的負担を増加させることになったり、何らかの体調変化があったとき温泉地では適切な治療が受けられない可能性があることなどもその理由として考えられます。しかし現代ではこれらの問題が生じることはまず考えられないこともあり、悪性腫瘍については、「進行した」場合という条件が付けられています。つまり温泉に入浴すること自体が悪性腫瘍の悪化を阻止する効果は考えられず、それより進行した病態では体の衰弱が著しいだろうから、わざわざ温泉地に出掛けて入浴することは避けるべきという考え方です。その他、全身衰弱が激しい場合や出血のあるとき、慢性疾患の急性増悪時などには当然として温泉療法を避けるべきとされています。

 それはともかくとして、温泉地に出掛けて、よい気候など自然環境の変化が、自律神経系、ホルモン系、免疫系などを改善して人の身体における自然治癒力を高め、病気を治癒の方向に導くことが期待されます。気候のよい時に温泉地で気分転換とともに健康増進をすすめて行きたいものです。