医療あれこれ

熱中症に水だけ飲んだら危険?

 蒸し暑い日が続いています。テレビや新聞では熱中症の予防に「こまめに水分を補給しましょう」と伝えています。このことについて少しだけ注意を要する点があります。大量に汗をかいたからといって水分として普通の水、あるいはお茶などを飲み過ぎると危険な状態になりかねません。

 普通の水の中にはナトリウムなどミネラルがほとんど含まれていません。これを大量に飲むと血液が水で薄められて、血液中のナトリウム濃度が相対的に下がってしまう「低ナトリウム血症」をひきおこす可能性があります。これを「水中毒」などと言ったりしています。どのように具合が悪いのかというと、脳細胞の中に細胞の外から水分が流入して、脳のむくみ(脳浮腫)をひきおこします。すると、けいれんや意識障害といった神経症状が出現してきます。さらに悪くなると脳ヘルニアという危険な状態が発生してくる可能性もあります。

noufushu.jpg 右の図をご覧下さい。脳は言うまでもなく頭蓋骨という骨で囲まれていますが、骨は伸び縮みしませんので頭蓋骨の中の容積はほぼ一定です。限られたスペースの頭蓋骨内にある脳がむくんで体積がふえると、頭蓋骨内の圧力が上昇することになります。すると頭蓋骨のうち穴があいている方へ脳がはみ出していく結果となります。これが脳ヘルニアです。その結果、脳幹という意識や呼吸の中枢がある場所が圧迫され生命の危機になってしまうことがあるのです。

 それでは一体どうすればよいのかということですが、大量の汗をかいたあとの水分補給は、水とともに少量の塩分を摂るとよいでしょう。塩は塩化ナトリウムですから、ナトリウムの補給になります。しかし摂り過ぎはよくありません。とくに血圧の高い人は注意が必要です。

 必要な量のナトリウムを含んでいる飲料がスポーツドリンクで、これはさまざまな成分がバランスよく含まれていますから、汗をかいたあとの水分補給には最適といえるでしょう。しかし、この場合でも今までのスポーツドリンクには糖分がかなり含まれており、糖尿病の人は要注意です。スポーツドリンクの大きなペットボトルを何本も飲んで糖尿病となってしまう場合を「ペットボトル症候群」といいます。最近ではカロリーオフのスポーツドリンクも発売されていますから、こちらの方が理想的といえるでしょう。