医療あれこれ

アルツハイマー病の新規治療薬

 認知症は現在世界中で5,500万人以上の人が患っており、今後さらに増加することが予想されていることから、2050年にはその患者数が1億3千万人にのぼると言われています。認知症の原因考えられている一つ病型として、脳梗塞などを含めた脳血管障害があり、脳血管性認知症と分類されていますが、認知症全体のうち約20%の頻度をしめます。

脳血管性認知症以外の認知症で全体の約6070%を占めるのがアミロイドβという異常タンパク質が脳に蓄積することにより発症するアルツハイマー病(アルツハイマー型認知症)です。これは脳血管性認知症とは異なり、高血圧や糖尿病などの原因疾患を治療し乱れた生活習慣を正すことにより予防できるといったものではなく、治療のためには脳に蓄積したアミロイドβを確実に除去することが必要ですが、この方法はこれまで確立されていませんでした。

テレビや新聞で報道されているように、このほどこのアミロイドβを除去する効能を持つ新規アルツハイマー病治療薬が、日本の製薬メーカー大手のエーザイとアメリカのバイオジェンの共同開発により創薬されました。一般的薬品名を「レカネマブ」といいます。アメリカでは本年1月に承認され7月から使用可能になっていましたが、日本においても承認され早ければ本年中に臨床的に使用されることが可能となる見通しです。

レカネマブを用いた治療費についてアメリカでは年間薬剤購入価格を患者一人当たり26500ドル(385万円)に設定しています。日本における薬価はまだ設定されておらず注目されるところですが、これまでの薬価に比べてはるかに高額になることが予想されます。そして対象症例としてアルツハイマー病の予備群と考えられる軽度認知障害(MCI)の人、または早期で軽症のアルツハイマー病に対する投与が有効と考えられ、慢性的に進行した病態のアルツハイマー病の人は投与対象とはなりません。いずれにしろ今後増加が想定される高齢者における医療が中心となることが想定され医療費の高騰が問題となってくることが容易に想定されるところです。

実際の投与方法は2週間に一回約一時間かけて点滴投与されるものです。治験における有効性は対象となった患者さんの7割が注射を開始してから一年半で蓄積していたアミロイドβが除去されることが確認されたそうです。ここで考慮する必要があるのは一年半経てばレカネマブ投与を中止することが可能なのかという点だろうと思います。これについてこれまでの報告では有効性が明らかとなれば中止することが可能なのかどうか明らかではないようですが、高額医療費のこともあり早期に結論を出してほしいものです。

もう一つの問題は、レカネマブの対象症例選択にあたって、アミロイドβが蓄積して発症した認知症かどうか確定診断する必要がある点です。症例が上述の脳血管性認知症であればこれに対してレカネマブが有効であるとは考えられません。アミロイドPETという特殊な陽電子放射診断装置が必要となりますが現時点でこれが施行できる医療施設は限られています。

 レカネマブがアルツハイマー病を治療する「夢のくすり」であるかようにマスコミで伝えらる向きもあるが解決すべき問題点も残されていることを理解してほしいと厚生労働省の担当者は述べています。