医療あれこれ

サル痘について

 521日、世界保健機関WHOは天然痘に似た症状を呈するサル痘が欧米やオーストラリアなど12カ国で確認されたと発表しました。人のウイルス感染症の天然痘については、この項でも何度かご紹介している通り、18世紀までは不治の病で致死率は40%以上とされていました。1796年ジェンナーが牛の天然痘である牛痘を人に接種して天然痘に対する免疫をつけるワクチン(種痘法)を開発し、これがきっかけで完全制圧され1980年WHOは天然痘撲滅宣言を出しました。この天然痘に似た症状を呈するサル痘に人が感染した例が拡がりをみせているというのです。

 なぜサル痘と呼ぶかというと、1958年にデンマークの研究所で世界各国から霊長類が集められその中にカニクイザルで最初に発見されたからだそうです。もともと西アフリカや中央アフリカの熱帯雨林地域における風土病で、天然痘に見られた症状と似ていることから霊長類サルの天然痘としてサル痘と呼ばれるようになりました。人への感染はコンゴ民主共和国(ザイール)において1970年にサル痘に感染した男児が初めて報告され、その後ナイジェリアにおける大規模な流行が発生し、コンゴでは本年20221月以降1,152例の感染例が報告されこのうち55例が死亡しています。オーストラリア、ベルギー、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、オランダ、ポルトガル、スペイン、スウェーデン、イギリス、アメリカと欧米に拡大していることから問題となっていますが、感染は今に始まったことではないのです。日本国内では2003年以降報告されていません。

 天然痘に似た症状といっても、現在生存している天然痘の感染例はないわけですから実際、天然痘がどんな症状かを観ることはできません。しかしサル痘の症状としては、潜伏期(感染してから発症するまで)は613日、その後に発熱、頭痛、リンパ節腫脹、筋肉痛が15日続き、その後皮膚の発疹が出現します。発疹は顔面から次第に全身に拡がります。

 天然痘が根絶されたことにより、日本でも1976年以降、それまで施行されていた天然痘ワクチン接種(種痘)が中止されたことにより、現在サル痘の流行が拡大している可能性が高いと警戒されています。ただし天然痘に比べて重症化しにくく、致死率は010%とされています。また種痘によるワクチンの予防が有効であるとされ、日本においても天然痘ワクチンや治療薬が保管されていると厚生労働省から公表されており、必要に応じて使用が考慮されるとしています。

 ところが、最近の論文をみるとサル痘の症例にサル痘に対する抗ウイルス薬が投与された症例では症状の持続やウイルス排出期間が短縮され有効性が確認されたものの、天然痘の治療薬が投与された症例において肝機能障害が発生し有効性が低いことが示されました。

Adler T. et al: Lancet  Infect. Dis. 2022524日オンライン版)

著者らは今後早期にサル痘発生時の対応策を確立していく必要があると述べています。