医療あれこれ

「スイス菌」という胃疾患の病原細菌

 ピロリ菌つまりヘリコバクター・ピロリは人間の胃の奥にいる病原菌で、胃潰瘍、慢性胃炎、さらに胃ガン発症の原因となることから、もし発見されれば抗菌薬を1週間服用して除菌することが推奨されていることは、現在では多くの人がご存知のこととなっています。

 今回の話題は、そのピロリ菌ではなく「スイス菌」という人間の胃の中から発見される病原細菌です。このスイス菌はピロリ菌と同類の細菌で、正式名称は「ヘリコバクター・ピロリ」と呼ぶそうです。このほどこのスイス菌を分離同定することに世界で初めて成功したという研究報告がありました。報告したのは国立感染症研究所の研究チームです。("Isolation and characterization of Helicobacter suis from human stomach" Emiko Rimbara et al. DOI 10.1073/pnas.2026337118)

 上述のようにピロリ菌は人間の胃から発見されると、多くの胃疾患の原因となりますが、ピロリ菌の除菌をおこなっても胃疾患を発症する人がいることから、ピロリ菌以外になんらかの病原細菌が存在するのではないかと疑われてはいましたが、実際に人の胃から分離されていないため詳細は不明でした。今回この研究者たちは、人間の胃からこの「スイス菌」の分離し、培養することに成功したのです。さらにこの培養されたスイス菌を実験的にネズミの胃粘膜に感染させたところ、このネズミの胃粘膜に炎症性変化がおこったそうです。またこれに感染しているマウス胃粘膜からは今回分離されたスイス菌と同族の病原細菌が確認されました。

 スイス菌はもともと豚の胃にいることが想定されていましたが、人間の胃では、このスイス菌がどの程度病原性があるのかなどのことは、これからのさらに詳しい研究成果を待たなければなりません。しかし胃疾患の治療においてこれまでのピロリ菌に加えて新たな治療を開発することが必要であることが明らかになったのは事実のようです。