医療あれこれ

白内障手術で高齢者の骨折リスクが低下

 白内障は年齢を重ねるに伴って増加してくる病気です。カメラでいうとレンズにあたる眼の水晶体が白濁してくるため、周りの物を見ても白くかすんだようになります。最近では、白内障の治療は白く濁った水晶体を摘出して、人工眼内レンズを挿入する手術が行われています。この手術は外来でもできるような手軽なものである上、手術によって術前とは全く違う明るい視野が広がり、手術を受けたほとんどの人は「やってよかった」とおっしゃいます。

Fx.jpg 一方、高齢者になると転倒のリスクが高くなります。この要因として、年齢を重ねるとともに足腰が弱ってくるということ以外に、視力の障害が強く関連しており、中でも白内障は転倒の原因として最も多いものの一つとされています。転倒すると骨粗鬆症など骨が弱っていることもあり、骨折の頻度が高くなります。同じ骨折でも、肋骨が折れたような場合などは、ほとんどは固定して安静にしていると自然に治ってくるようなものもあります。しかし「大腿骨頚部骨折」は最も重大で、太ももの中にある大腿骨という太い骨と骨盤との関節をつないでいる球状の部分の付け根が折れてしまうものです。(右の図)この骨折を起こすと、足がぐらぐらになって歩行することができません。ギプスなどで固定しても治らないので、歩くためには整形外科的に手術をすることが絶対に必要になります。

 この程、米国のブラウン大学の研究者が、「白内障手術で高齢者の大腿骨頚部骨折リスクが低下」という論文を発表しました。(JAMA 2012: 308: 493-501)これによると米国で65歳以上の白内障患者の5%に当たる1113640人の人を対象として調査したところ、41809人(36.9%)が白内障手術を受けていました。手術後1年間と、手術を受けていない人は白内障と診断されてから1年間の大腿骨頚部骨折発生率を比較した結果、手術を受けた人の大腿骨頚部骨折リスクは、手術していない人より16%も少ないことが判りました。さらに白内障でも重症の人に限って調べるとさらにこの傾向は強く、23%のリスク低下があったということです。

 白内障の手術と骨折の手術を比べると、はるかに白内障手術の方が手軽で、医療費も格安です。白内障手術は視力改善だけでなく、高齢者の骨折を減少させる上で費用効果の高いものであることが示唆される報告だと思います。