医療あれこれ

新型コロナに有効な新薬開発は?

 夏が過ぎて新型コロナウイルス感染症の拡大はわずかながらようやく落ちついてきているようにも見えますが、まだまだ油断はできません。来年に延期された東京オリンピック開催に向けてだけではなく、これまで私たちが当然のようにふるまってきた社会生活をもとに戻すためには、新型コロナのワクチン開発はもちろん、もし感染してしまってもウイルスをたたいて治療する抗ウイルス薬がどうしても必要になります。

 しかし一般的には新規の薬剤を一から開発するためには、膨大な財源と時間、さらに人的資源が必要です。薬剤として使えそうな大多数の化合物の中から、化学実験で有効性が確かめられ、動物実験で有害性がないかを調べ、実験的な疾患モデルを作成した動物に投与して有効性が確かめられます。それである程度有効であることが判れば、次に実際に人に投与してみるのです。まずは安全な投与量が確かめられ、次いで実際の症例に投与してみます。対象の数は1020のような少人数では薬の効能は確かめられませんから、実験の段階が進むにつれて対象数を増やしていきます。最終的に実際に感染した人に投与して有効性と安全性が確かめられ、製品として発売されるに至るのですが、1年や2年でできる作業ではありません。しかも製薬会社にとってみても、確実に新薬ができる保証はないため非常にリスクが大きいため大企業と言われる会社でなければ新薬開発はできないのが現状です。

 そこでこれまでに他の疾患に有効として承認されている薬剤から、新型コロナの治療薬として使用できるかどうかを見出していく手法が考えられます。これを「ドラッグ・リポジショニング」といいますが、基礎研究は既に済んでいる薬剤ですから短時間で薬効を評価でき、全体の開発費も抑えられると考えられます。

 本年8月に開催された第94回日本感染症学会総会のシンポジウムで国立感染症研究所所長の脇田隆字先生がこの「ドラッグ・リポジショニング」について講演され、例えば抗マラリア薬の「メフロキン」に強い抗ウイルス効果があることを始めとしていくつかの例が紹介されました。さらに先生の研究グループでは現在日本で承認されている薬剤のほぼ全て(3060の化合物があるそうですが)について調べ、有望な薬剤が見出されつつあることが紹介されました。大いに期待できる研究だと思われます。