医療あれこれ

バイオニック医療

 バイオニックを直訳すると「生物工学」で、コンピューター、通信機器やテレビなどほとんど全ての科学的機器が含まれますが、これに基づく医療というと人の意志通りに機器を動かす技術です。つまり人間の機能をそのまま人工的、機器的に補助する医療ということになります。例えばこれまでは、事故などで手足が失われてしまった時に用いられる義足や義手は、単純に体を支えるだけのものでしたが、その人の意志どおりに動かせる義足、義手にする技術です。手足の動きは筋肉から発せられた手足を動かそうとする刺激(つまり電気刺激)によりおこなわれているものですが、バイオニック医療で用いられる「ロボット義手」はこの電気刺激を関知して人の意志通りに動かす事ができるものなのです。

 ずっと以前からバイオニック医療を代表するものとして使用されている医療機器の一つに心臓ペースメーカーがあります。1950年代、不整脈の治療目的で開発されましたが、当初は体外に置かれた機器から心臓を拍動させる電気刺激が発せられこの刺激を伝導するコードを通じて心臓の筋肉に伝え、規則正しく心臓を拍動させる仕組みでした。この医療機器が小型化され体内に植え込む植え込み型ペースメーカーになり、1980年代には電気刺激が必要な時だけ作動する心拍応答型ペースメーカ-が使用されるようになりました。さらに2010年代になると体内に電気コードを設置する必要がないリードレスペースメーカーが開発されたり、体内に医療機器が埋め込まれていても検査のために磁気を用いるMRI対応のペースメーカーが使用されています。

 これらのことからペースメーカー植え込み治療を受けている人は、当初、心機能障害がある身体障害者認定基準で1級に認定されましたが、2014年の法改正で、植え込み処置後、日常生活に制限がなければ身体障害には該当しないようになりました。

 一方、心臓に関係する医療機器として、ペースメーカーは不整脈に対応するものですが、心臓の筋肉自体に問題があり最終的に心臓移植が必要な場合に対応する機器である補助人工心臓も小型化され、心臓というポンプ自体を体内に埋め込んで心臓の機能を補うことが可能となりました。心臓移植を待つ間だけの補助人工心臓が、半永久的に継続して使用される医療機器になりつつあります。

 バイオニック医療としては心臓以外に、血糖値の上下を予想して注入量を自動調節するインスリンポンプ、予兆を感知しててんかん発作を予防する迷走神経刺激装置、重度の聴力障害を補助する人工内耳、網膜の不具合による視力障害を補完する埋め込み型人工網膜など多方面にわたる応用が開発され使用可能になりつつあります。

 失われた臓器機能に対する医療として、iPS細胞などによる再生医療とともにバイオニック医療は最先端の医療の一翼をにないます。米国マサチューセッツ工科大学のヒュー・ハー氏は「世の中には身体障害者はいない。ただ技術の方に障害があるだけだ」と述べています。

引用文献:日経メディカル;身近になるバイオニック医療、20195月号