医療あれこれ

舞台医学について

 先日、劇団四季のキャッツ、オペラ座の怪人、ライオンキングなどのミュージカル演出でしられる浅利慶太さんが亡くなられたというニュースがありました。死亡原因は悪性リンパ腫だったそうです。悪性リンパ腫は抗腫瘍剤や放射線治療など長時間を要する加療が必要で、病気のタイプによって良好な経過をとるものもあれば、治療に対する反応性が悪いものなどさまざまな種類があります。報道によると昨年夏に悪性リンパ腫と診断されたとありますが、治療を受けながら最後まで演出の仕事をつづけられたといいます。

 ところで今回の話題は、演劇や音楽、舞踊など舞台芸術家にみられる傷病のリスクを対象とした「舞台医学」といわれるものです。スポーツ選手などでは、古くから整形外科関連のスポーツ障害が知られており、「スポーツ医学」という概念は確立された医学・医療領域となっています。音楽や舞踊のほか演劇などあらゆる身体的表現を用いる芸術家もスポーツ選手と同様、特別な傷病のリスクに直面していることから、近年、スポーツ医学のように全体として一つの医学・医療として扱おうという考え方が生まれてきました。

どのような傷病が舞台医療の対象になるかというと、音楽関係では、ピアノ、ギター奏者にみられる腱鞘炎や手の変形性関節炎、バイオリン、大きな吹奏楽器による肩関節周囲炎、打楽器などによる頚椎症など、あらゆる身体的障害があります。舞踏では、スポーツと同様、足関節捻挫や腰痛、靱帯損傷、頚椎症、股関節障害などがあります。またストリートダンスなどアクロバティックな動きをするような舞踏では特に障害発生率は増加するでしょう。舞台演劇などほぼ日常生活のような動きだけが求められる芸術家でも、そのリハーサルを含めた動きの中で転倒や舞台からの転落などのリスクがあると考えられます。これらはプロ、アマを問いません。一流の芸術家の演技も、小さな子供バレエの発表会も、程度の差こそあれ皆同じリスクがあるというのです。

舞台医学は、これまでに知られていたことをまとめた新しい概念で、「これから日本を中心にして広めて行きたい」と東京大学教授で身体教育科学がご専門の武藤芳照氏は述べられています。

参照:武藤芳照監修:舞台医学入門 新興医学出版社 (2018/4/6)