医療あれこれ

肺がん について

先日、歌舞伎の中村獅童さんが初期の肺がんと診断されたというニュースがあったことはご存知のとおりです。そこで今回は肺がんについて少しお話します。

中村獅童さんは「肺腺がん」だったという報道でした。肺がんは、がん細胞の種類によって、主として腺がん、扁平上皮がん、大細胞がん、小細胞がんの4種類があります。そのうち腺がんは肺がんの半分以上を占めますが、これらのうちでも比較的喫煙との関係がうすいとされています。

獅童さんの場合、初期のがんということでしたが、定期的に健康診断で胸部X線検査を受診しておくと肺がんの早期診断ができると考えるのは誤りです。胸部には心臓とそれに続く大動脈、気管、気管支、肺の動脈・静脈などがあってX線撮影をすると、これらが映し出されますから、サイズが小さい早期のがんを発見するのはなかなか困難です。また腺がんは肺の外側よりに発生することが多いので、比較的陰影を見分けることができますが、喫煙者に多くみられる扁平上皮がんなどは、肺の中央部近くに発生することが多いので、心臓・大動脈の陰影と重なって特に通常のX線写真で発見することが困難な場合があります。そこで画像検査で肺がんを診断するにはCTスキャンやMRIなどの断層写真が必要になってくるのです。

4種類の肺がんのうちでも、特に小細胞がんは進行が速いので手術で完全に摘出することができない場合もあります。しかしその反面、小細胞がんは抗がん剤がある程度効きやすいので治療にあたっては手術だけでなく抗がん剤治療を優先的に考慮します。逆にその他の3種類のがんは進行が小細胞がんほど速くない場合もあるので、手術的摘除が考慮されますが、抗がん剤は小細胞がんよりも効きにくいことがあるのです。このように小細胞がんとそれ以外の肺がんとではその性質がかなり異なりますから、一般に肺がんの診断にあたっては、小細胞がん、非小細胞がんの2種類を見極めることが重要です。

このように肺がんの確定診断には、がん細胞の種類を顕微鏡で調べることが必須です。ですからX線などの画像検査では肺がんの確定診断はできません。これは肺がんに限らず胃がんや大腸がんなど、どの臓器に発生するがんでも同じですが、がん細胞を確認することが確定診断には必須です。つまり細胞検査のためにはがん細胞を採取してくる必要があります。喀痰中にがん細胞が含まれていれば、それを調べればよいのですが、通常、気管支鏡(気管支ファイバースコープ)をおこない細胞採取します。胃がん、大腸がんの確定診断に胃カメラ、大腸カメラが必須であるのと同様ですが、特に肺がんの場合、今述べたようにがん細胞の種類を見分ける診断が必要なのです。

また、がん細胞が血液中に流しだす特定のたんぱく質を血液検査で調べることもあります。このたんぱく質を腫瘍マーカーといい、小細胞がんではNSE、腺がんではCEA、扁平上皮がんではSCCなどと呼ばれるものがあります。しかしこれらはあくまで、診断の参考にしたり、確定診断がついて治療をおこなったあと、これらのマーカーの変動を見ておくと治療効果を判断したり、値が高くなってくると、万が一の再発の兆候であると考えることができるなどというもので、早期診断に役立つものではありません。

抗がん剤を用いた治療においては、がん細胞の種類によってどの薬剤が最も効果的かを判断して治療をすすめるようになりました。これは特定の細胞だけにマトを絞ったものであることから、分子標的治療といいます。抗がん剤治療のほか、放射線照射による治療も近年ずいぶん進歩しています。しかし手術でがんをすべて摘出できればより完璧であることに変わりはなく、中村獅童さんの場合はすべて摘出するということなので「奇跡的」でラッキーだったといえるでしょう。