医療あれこれ

虫歯菌が脳出血おこす。では歯周病菌は?

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 今年に入って、「ミュータンス菌」という虫歯の原因となる菌が脳出血に関与するという報告がなされています。このミュータンス菌は人の血液を固めて止血に作用する血球である血小板の作用を抑制することが判っていました。これが原因で脳出血がおこるというのです。またMRI検査で、脳出血のうち微小な脳出血が多かったという報告もあります。さらに同じミュータンス菌でも、ある特殊な遺伝子をもつものが特にこの血小板の止血機能を抑制することも判っており、歯磨きは虫歯予防だけでなく、脳出血の予防につながるということになります。

 一方、虫歯と違って歯周病を引き起こす歯周病菌には様々な種類のあることが判っています。以前から歯周病の人は心筋梗塞になるリスクが高いことが報告されていて、この原因は歯周病菌による血小板の凝集能が高まり血栓を形成する作用によるものだというのです。この血栓が心臓の冠状動脈を閉塞させ心筋梗塞が発症するということになります。

話が複雑になったので整理しますと、虫歯菌は血小板の作用を抑制するため出血をおこしやすくなる、一方、歯周病菌は血小板の作用を亢進させることから血栓を作りやすくなるということです。

どちらにしても歯磨きをしっかりして虫歯にも歯周病にもならないことが血管の病気を予防するのだという単純な結論にはなります。しかし同じ血管の病気といっても血管壁が切れて出血をおこすものと、血管が血栓により閉塞して梗塞をおこすという全く正反対の現象が口腔内の歯や歯の周囲で発生しているのです。

 人の病気の発生原因は単純ではありません。一つの事象をとらえて、これに対応すれば大きな病気の対策になると短絡的な結論を作り上げてしまうと大問題となる可能性があることがお解りでしょう。私たち医療者はこのことを慎重に考えていく必要があると思います。