医療あれこれ

筋萎縮性側索硬化症と認知症

 筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic Lateral Sclerosis; ALS)は原因不明の難病で、中枢神経から末梢神経までの運動神経がその性質を変化させ、全身の筋力低下、筋肉萎縮をきたす疾患です。一部を除いて遺伝性はなく全くの原因不明であり、初期に投与すると病気の進行を遅らせることが可能とされるリルゾールという薬剤以外の有効な治療法はありません。

gehrig.jpg

 これまでに多くの有名人がこのALSに罹患して亡くなった方も大勢います。なかでもアメリカ大リーグのスター選手だったルー・ゲーリックもALSに罹患して37歳の若さでその生涯を閉じました。(右の写真はヤンキース時代のゲーリックです。)このことからALSという病気の存在が広く一般にしられるようになり、一時ALSのことを「ルー・ゲーリック病」と呼ばれたこともあったようです。最近ではALS支援のための募金を集めることを目的として、有名人が氷水を頭からかぶっている動画がフェイスブックなどの交流サイトに公開されていたことは記憶に新しいと思います。

 ALSの症状は、手の先から始まる筋肉の萎縮で、次第に全身に拡がっていきます。書字障害、歩行障害、からさらに進行し言語障害や、横隔膜や肋間筋など呼吸に関係する筋肉が障害されるようになることから最終的に自発呼吸ができなくなり人工呼吸器を装着しないと生きていけない状態になってしまいます。ただし以前から陰性四徴候として、①知覚障害がない、②眼球運動障害がない、③排便・排尿障害がない、④褥瘡ができにくい、という特徴があると医学書にも記載されていました。とくに眼球の動きが残存していることが、患者さんとのコミュニケーションの唯一の手段とされています。つまり患者さんは眼球の運動により質問に「はい」「いいえ」を答えることができ、文字盤を眼で追うことから言葉を伝えることができるのです。しかし最近ではこれら陰性四徴候も最終的には消失してしまうとされています。これまで医療では全身状態の管理が十分できず、これら陰性徴候が最終的に出現するまでに合併症で亡くなってしまう例が多かったのでしょう。

 中枢神経の判断・思考能力は最終段階まで残存することから、患者さんは自分の思いを伝える手段がなく、その精神的ストレスはどれほどなのか想像を絶するものだと思います。認知症についてもこれまでは最終段階まで存在しないとされていましたが、最近の研究ではALSに認知症が合併することもまれではないことがわかってきました。510%のALS症例に認知症が合併するとされ、軽度認知障害を含めるとその合併は3245%に達するとされています。

 最近のニュースで山中教授のiPS細胞を用いたALSの研究が成果をあげており、近くALSの病態解明、新規治療法の開発が待たれるところです。