医療あれこれ

ベートーヴェンはB型肝炎に罹患していた

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 作曲家のベートーヴェンはB型ウイルス性肝炎に罹患していたとする遺髪を材料としたゲノム解析の研究結果が学術雑誌に公表されています。

この偉大な作曲家ベートーヴェンは1827326日に56歳で死去したとされていますが、比較的若年からさまざまな健康障害に悩まされていたそうです。有名な話は、20歳代半ばから聴力低下を訴えており、晩年に代表作の一つで歓喜の歌の合唱付きで知られる交響曲第9番を作曲した頃には聴力は完全に失われていたとされています。また比較的若年から肝臓疾患の症状である黄疸がいく度となく認められていたそうです。

今回明らかにされた研究はイギリスのケンブリッジ大学などの国際共同研究グループによりなされたもので、「Current Biology322日号に掲載されています。ベートーヴェンが死亡した翌日に彼の机の引き出しから、弟子たちにあてた手紙が発見されました。そこには増悪していく聴力障害について深く思い悩んでいたことが記され、自分の死後には病気のことを明らかにして欲しいと述べられていました。手紙にはベートーヴェンの物とされる8束の遺影が添えられていましたが、これらのうち保存状態が良くゲノム解析に供することができるものが用いられ研究がおこなわれたのです。遺髪の一部は女性の物であり、これ以外にもアシュケナージ系ユダヤ人由来の毛髪が含まれましたが、これら以外の明らかにベートーヴェンの遺髪と考えられるもののDNAを調べたのです。

その結果、死亡する以前の少なくとも数ヶ月にはB型肝炎ウイルスに感染していたことが明らかにされました。ベートーヴェンには飲酒習慣があったことが文献的な記録にあるそうですが、これによりアルコール性肝機能障害が基礎にありB型肝炎ウイルス感染が重なって肝機能は重症化したと推察されています。しかしこの肝機能障害が直接的な死因につながったかどうかは明らかではありません。またベートーヴェン自身が思い悩んでいた聴力障害の原因についても詳細な機序は不明だったそうです。

今回の研究には8束の遺髪が材料として用いられましたが、これ以外にもまだ24束もの遺髪が未調査のまま存在しているそうで、今後さらなる調査研究の成果が期待されています。