医療あれこれ

5300年前のミイラの胃にピロリ菌がいた

 今年の初めから、「アイスマン」の胃にはピロリ菌がいたという新聞報道などがありました。

 アイスマンとは、アルプス山脈でオーストリアとイタリアの国境にある渓谷で発見された、約5300年前と考えられる男性のミイラです。血液型はO型で生前は腰痛症を持っていたのではないか、死因は左肩に矢が刺さった痕跡があることから敵から攻撃を受けたためによる出血死ではないかなどと推測されています。

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 このアイスマンの胃の内容物を検索すると、動物の肉やパンを食べていたのではないかなどと想定されていますが、さらに胃潰瘍、胃ガンを始めとしてさまざまな胃疾患の原因となるヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)がいたことが判りました。(ピロリ菌については以前にもこの項でご紹介しましたので参照して下さい。2013813日付「ピロリ菌と胃ガン」←クリックするとページがご覧になれます。)さらにアイスマンの胃に感染していたピロリ菌の遺伝子レベルでの解析をすすめると、この菌は細胞障害性であったといいます。少なくともアイスマンは慢性胃炎に罹患していたことが想定されますが、通常慢性胃炎では胃痛などの自覚症状に乏しく、彼が胃の症状に悩まされていたと考えるのは早計だと考えられています。

 さらにアイスマンに感染していたピロリ菌の遺伝子型は、欧州人や北東アフリカに多いものではなく、中央アジアや、現在では南アジアで一般的にみられる遺伝子型だというのです。このことから、5300年前から欧州では広い範囲で人々の往来があったことが想定されるのだそうです。感染していた細菌から昔の人類大移動が明らかにされるというのは大変興味深いことと思います。

出典:鈴木秀和Medical Tribune Doctor's Eye 2016.3.16