医療あれこれ

血液と血管 (4)

 血液が固まって血栓を形成する第一段階は血小板の活性化による血小板血栓形成であることはこれまでに紹介しました。(血液と血管2)血管が切れて出血がおこった時、血小板は血管壁の外側に粘着し(血小板粘着)、さらに血小板と血小板が塊をつくり(血小板凝集)止血のための血小板血栓を作ります。しかしこの現象は血管が切れて出血がおこった時の反応ですから、心筋梗塞や脳梗塞のように血管は切れていないのに血管内で血小板が塊を作ってしまうのはなぜなのでしょうか。普通、血液が流れている血管の一番内側(つまり血管構造のうち血液と直接接するところ)には一層の内皮細胞がはりめぐらされています。この内皮細胞からは血小板や凝固因子を活性化させない、つまり血栓を作らせないような抗血栓作用のあるさまざまな物質が分泌され、血栓形成を抑止しています。しかし動脈硬化を起こしてくるようなさまざまな要因でこの内皮細胞がはがれたとき、内皮下組織には血小板は粘着し凝集塊を形成すると同時に、凝固因子の活性化が起こってフィブリンが形成されてきます。つまり出血がない時の血栓形成は血管壁の障害が大きな要因の一つです。

 血小板活性化の大きな要因は他にもあって、圧力がかかると血小板は活性化するのです。静脈よりも動脈において血小板が活性化しやすいのは、動脈の圧力(つまり血圧)が関係していることです。血液は血管内で一律に流れているのではありません。血管の中央部は速いスピードで流れているに対して、血管壁の近くでは遅く流れています。これは摩擦などで血流とは反対に作用する「ずり応力」170702shear-stress.jpgという力が作用しているのです。例えば図のように机の上に本を重ねておいてあるような状態で上の部分を押してやると、机の面と接している本は元の状態を保つように押している力と反対の方を向く力が働きます。これが「ずり応力」です。通常「ずり応力」は血管内皮細胞に働き、血小板の作用を抑制する物質が分泌されるので血栓は生じにくいのですが、動脈の血管分岐部、狭窄部ではずり応力が不整に作用して血小板に作用することから活性化を起こし血栓形成につながります。