医療あれこれ

久山町研究
2012年7月11日

 福岡県のほぼ中央部、福岡市に隣接した場所で、周囲を山に囲まれた緑豊かな久山町ところがあります。久山町研究とは、九州大学医学部第二内科が、脳出血の原因を究明するため、町民の人全員を対象として臨床研究をし、多くの優れた成果を発表しているものです。

 臨床医学は、理屈では解っていても本当にそれが事実なのかを調べるためには、同じ条件で生活する人たちを対象とした臨床研究が不可欠です。久山町研究は日本においてしっかりとした方法論で成果を挙げている最も有名な臨床研究の一つです。

 1961年にこの研究は始まりましたので、50年経過したことになります。1950年代、1960年代当時は脳卒中は日本人の死因で第一位でした。(612日付けで公開した医療あれこれ「肺炎が死因の第三位んになりました」の記事に厚生労働省が発表している死因の年次推移のグラフを示してありますので、参照してください。)昔は、「脳出血をおこした人は動かしたら危険だ。救急車で病院に運んでもいけない」といわれており、1961年もこんな時代でした。

今のように頭蓋骨の中を輪切りの写真で観察するCTスキャンやMRIがなかった時代ですから、脳出血と診断を確定するためには、患者さんが亡くなった後、死因を調べるための解剖(剖検といいます)をして、生前できなかった確定診断を行ったのです。

 何が原因で脳出血がおきるのかを調べたところ、高血圧が最も関連が深い危険因子であることが判りました。理屈から考えるとこれは当たり前のことのように思えますが、50年前は、今では当たり前の「血圧を測定する」という習慣もなかったそうです。そこで高血圧の治療を徹底して行うと、脳出血は減少する結果が得られ、今では当たり前の事実が証明されたのです。

 その後、高血圧治療は続けられましたが、1980年代の後半になると、脳卒中の発生頻度は減少しなくなりました。九州大学の医学者たちは、さらに他の危険因子を解析し、肥満や糖尿病、さらにコレステロールが多いなどの今で言う「メタボリックシンドローム」に当たる危険因子を究明して行ったのです。これら新たな危険因子は、脳卒中のうち、脳血管が切れておこる脳出血ではなく、脳血管がつまってしまう脳梗塞の危険因子であることが明らかとなりました。統計結果でも、脳卒中のうち脳出血は著明に減少しましたが、脳梗塞は増加しています。このように時代とともに発生する病気は変化していきます。

 久山町研究は、現在も続けられていて、認知症発症の研究や、遺伝子研究などにも発展しているそうです。私たちにおこる病気の原因がこれからも詳しく調べられ、新たな成果がどんどん発表されていくことが期待されます。




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