医療あれこれ

甲状腺ホルモンと心臓
2014年10月26日

 

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以前にもご紹介しましたが(20121228日;バセドウ病と不整脈)、甲状腺ホルモンが過剰になると心臓の刺激伝導系が亢進状態となり、脈が速く動悸を感じるようになるとともに、心房が細かく震える心房細動という不整脈が発生してきます。その結果、左心房の中に形成された血栓が脳の血管を閉塞して脳梗塞を引き起こします(右の図)。

 その他、甲状腺ホルモンの心臓血管系への影響は、血圧の変動をもたらすことです。甲状腺ホルモンにより心臓の収縮力が高くなることから、上の血圧、つまり心臓が収縮したときの血圧(収縮期血圧)は上昇する一方、全身の血管抵抗性が低下して下の血圧、つまり心臓が拡張した時の血圧(拡張期血圧)は逆に低下します。このことから上下の血圧の差が大きくなります。また甲状腺機能亢進症であるバセドウ病では、心臓から血液を送り出される量、つまり心拍出量が正常の23倍に増加していることが知られています。その結果、心臓から大動脈へ送り出された大量の血液が逆流防止のために存在する大動脈弁に圧力がかかり、開きにくい状態となります。これは相対的な大動脈弁狭窄症の状態にあたるため、聴診器で心雑音が聴かれることになります。

 若い人の甲状腺ホルモン過剰症で、心雑音が聴かれる原因として、このような機序が考えられますが、高齢者になるとさらに別の要因も発生してきます。年齢とともに、動脈硬化などの影響で大動脈弁が硬くなり、大動脈弁の開き具合が悪い大動脈弁狭窄症を発生し心雑音が増強されることとなってしまいます。

 かつてはこれらの弁膜症がおこる原因として、リウマチ熱という溶血連鎖球菌の感染症があり、その後遺症として弁が狭くなる(狭窄症)、あるいはしっかり閉まらなくなる(閉鎖不全症)弁膜症がおこることが主要な原因でした。しかしリウマチ熱が重症化することが少なくなり、最近では加齢による弁膜症の頻度が多くなっています。

 甲状腺ホルモンに限らず、すべてのホルモンの作用はその受け皿(受容体)がある決まった場所(標的臓器といいます)にしか作用しません。心臓は甲状腺ホルモンの主要な標的臓器の一つなのです。

文献:小澤安則 日本医事新報 No.472120141018日号P.64




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