医療あれこれ

糖尿病と認知症
2012年3月18日
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 高齢社会が進行して、認知症患者さんの急増が問題となっています。日本では、アルツハイマー病と呼ばれる脳細胞が変性して発症する疾患が約半数を占め、残りは脳梗塞などが原因となる脳血管性認知症およびアルツハイマー病と同じく脳細胞が変性するレビー小体病が多いとされています。

 日本のアルツハイマー病の患者数は約100万人とも言われ、65歳以上の10人に1人が発症の危険性を持っています。アルツハイマー病に罹患していて亡くなった人の脳細胞を調べると、アミロイド・ベータという異常たんぱく質が蓄積していることが解り、これが10年以上の時間をかけて脳細胞を死滅させていくことが、アルツハイマー病発症原因の主要な機序と考えられています。

 そこでこのアミロイド・ベータに対するワクチンがアルツハイマー病の予防接種として用いられないか現在、研究・開発が進行しています。またこれまで一種類しかなかったアルツハイマー病治療薬に加えて、昨年新規の治療薬が発売され、新たな薬物治療の展開が期待されています。

 ところで、高齢社会でもう一つの問題となる疾患に生活習慣病である糖尿病があります。糖尿病は血管を障害して、さまざまな合併症を発症させていくことはご存じの通りです。糖尿病と認知症との関係を考えるとき、糖尿病は脳梗塞の危険因子の一つですから、脳梗塞の後遺症による脳血管性認知症の誘因になることは容易に想像できます。

一方で、以前から糖尿病はアルツハイマー病発症の重要な危険因子の一つであることが解っていました。このことは昨年の11月に開催された日本認知症学会でも「糖尿病と認知症」という主題のシンポジウムとして取り上げられ、多くの新しい知見が報告されています。糖尿病発症前の糖代謝異常がある段階から認知症発症リスクが増加するという疫学的研究や、血糖値の高値が持続すると血液中の終末糖化産物の形成が進み、身体の酸化ストレスがアミロイド・ベータの沈着を促進するなど多くの報告がなされました。

 乱れた生活習慣が誘因で発症する糖尿病では、血糖をコントロールするインスリンが効きにくくなる「インスリン抵抗性」という状態が起こります。このため初期の糖尿病では血液中のインスリン量は増加している時期があるのですが、このインスリンの異常状態がアミロイド・ベータの沈着を促進することも解ってきました。またインスリンはアミロイド・ベータ除去にも関係している可能性も示唆されています。

 いずれにしても糖尿病におけるアルツハイマー病発症機序は複合的で一つの事象から説明できるものではありません。しかし糖尿病は認知症の大きな危険因子でもあることに間違いはなく、生活習慣改善を含めた適切な治療を続けていくことが重要です。





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