医療あれこれ

医療の歴史(28) ペニシリンの発見

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 最もよく知られている抗生物質のペニシリンが発見されたのはまったくの偶然でした。イギリス人医師、アレクサンダー・フレミング(18811955)がロンドンのセントメリー病院で働いていた1914年、第一次世界大戦が始まります。病院には多くの負傷兵が運び込まれ、その多くは傷口が化膿してくるのですが、当時の医学ではこれを治すことができませんでした。医療の歴史(22)でご紹介したリスターの石炭酸は消毒薬として手術時の化膿の予防には有効ですが、化膿してしまった傷口を治すことはできません。フレミングは化膿つまり細菌感染を治療する方法はないものかと、細菌の研究を始めます。ブドウ球菌を培養皿で増殖させる実験をしているとき、培養皿の一つをうっかり窓ぎわに放置したまま忘れていたのですが、後で気付いたとき、その培養皿に青カビがはえてしまいました。培養の実験は失敗で、普通ならそれはゴミ箱行きになるところですが、フレミングがその培養皿をよく見てみると、青カビのはえた周囲だけはブドウ球菌が死滅していることに気付いたのです。もしかすると青カビの成分には細菌を死滅させる成分があるのではないかと考えた彼は、青カビの濾過液から細菌を殺す作用のある物質を発見します。青カビの属名であるペニシリウムの名をとって、その殺菌作用のある物質をペニシリンと命名したのでした。1928年のことです。

 フレミングはペニシリンの殺菌作用について1929年に論文を発表しましたが、当時はあまり注目されませんでした。なぜなら彼はペニシリンの塗り薬を作って化膿した傷口にぬると石炭酸よりよく効くことまでしか確かめて発表しておらず、現在のようにペニシリンの飲み薬や注射薬など全身的に投与することまで考えが及んでいなかったのです。優れた、そして世界初の抗菌薬ペニシリンが医学の世界で認知されるまでにはもう少し時間が必要でした。