医療あれこれ

医療の歴史(108) 胃カメラの開発2 クスマウル

 進行した糖尿病の重大な合併症の一つに糖尿病性ケト・アシドーシスがあります。これは血糖をコントロールするインスリンの作用が欠乏して、血液中のケトン体が増え、血液全体が酸性になってしまった状態をいいます。(血液が酸性になった状態:アシドーシス)ケトン体は、インスリン作用欠乏のため血糖がコントロール不能になった結果、体を動かすエネルギー源として肝臓で生成されるものです。患者の呼気がケトン体の一つであるアセトンの臭いがすると同時に、呼吸が異常に大きな呼吸を規則正しく繰り返す状態になり、適切な治療をしないと死に至ってしまいます。この呼吸状態をクスマウル大呼吸と呼んでいます。なぜ大呼吸になるのかというと、アシドーシス(酸性)の状態を少しでも中性に近づけようと、血液中の二酸化炭素を呼気中にはき出し、酸素を多く取り込もうとする身体の反応なのです。

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 クスマウルとはこの呼吸状態を初めて記載した人の名前ですが、前回ご紹介した(医療の歴史1071868年、実用化には至りませんでしたが初めて硬い金属の筒でできた胃内視鏡を作り出したアドルフ・クスマウル(18221902)、その人です。胃カメラの歴史とは直接、関係ありませんが、今回クスマウルの医学業績の一つであるクスマウル大呼吸についてご紹介しているわけです。

 クスマウルは、ドイツのアウクスブルグ郡グラーベンに生まれました。ドイツの戯曲アルト・ハイデルベルグや古城で有名なハイデルベルグにあるハイデルベルグ大学で医学を学びました。生涯を通じて病理学、内科学、特に神経や代謝疾患などについて様々な業績を残しています。そのうちでも糖尿病性ケト・アシドーシスの報告は重要なもので、クスマウル大呼吸は医学関係者にはよく知られています。胃カメラの開発1の初めての胃鏡は、クスマウルがドイツで最も権威ある大学の一つアルベルト・ルートヴィヒ大学フライブルクに在籍していた時に試作されたものでした。