医療あれこれ

医療の歴史(107) 胃カメラの開発1~胃鏡

 現在の外科医療は、一昔前のように切開手術をして病巣を切除するのではなく、可能な限り内視鏡による手術がおこなわれます。その基本となるのが胃カメラや大腸カメラなどもともと消化管の診断を目的として開発されてきた内視鏡です。世界で最初に消化管の中をのぞいてみることに成功したのは、19世紀ドイツの内科医だったアドルフ・クスマウルです。筒状の金属棒の中に鏡を仕組んで口から挿入する医療用の道具「胃鏡」を開発したのです。そしてこれを用いて食道がんを発見することに成功したのでした。

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しかし上部消化管のなかで最も病気が多いのは胃ですから、なんとかこの胃鏡を胃まで挿入して胃のなかを見ることができないかとクスマウルは考えていました。今の胃カメラと違って胃鏡は硬い金属の筒ですから、普通ならそのようなものが喉と食道をまっすぐに通って胃まで達することは不可能と考えるのは当然です。しかしクスマウルはそれが可能だと考えていました。その根拠は当時の大道芸で剣飲みというものがあって、それをやってみせる大道芸人は、まっすぐな長い剣を簡単に口の奥まで入れていく芸を見ていたからでした。1868年、クスマウルは胃の中を見るための道具、長さが50cm弱もある胃鏡を創作しました。そしてこれを胃の中まで挿入することに成功したのでした。

しかし物事はそう簡単には進みません。金属の筒を胃の中まで挿入しても暗くて中の様子をみることができません。筒の先端を照明する方法がなかったのでした。今と違って超小型の照明機器や写真撮影装置がなかった19世紀では当然のことでした。また太くて硬い金属の筒が喉を通して挿入される被験者の苦痛は想像を絶するものです。中にはこの硬い筒が食道を突き破って患者が死亡してしまうなど、普通なら当然予想されるような医療事故も発生してしまいました。そして世界で初めて作られた内視鏡の原型である胃鏡は、その後の進歩をとげることなく使われなくなってしまったのでした。

 クスマウルのように医療のために消化管の中を直接のぞいてみる必要があるといった考え方は先進的なものでした。しかし医療の歴史の中で、現在のように内視鏡が外科医療の多くを占めるようになる基礎となった胃カメラの開発は、戦後、日本人たちの手による画期的な業績まで待たなければなりませんでした。