医療あれこれ

医療の歴史(104) 初めてCTの原型を作った人

 病気の診断において、身体の内部を調べる画像診断にはX線診断は必須です。医療の歴史上1895年のレントゲンによるX線発見は重要な事柄でした(医療の歴史25参照)。さらに内部の構造を輪切りの写真で詳しく観ることができるコンピューター断層写真(CTスキャン)の発明は近代医学の画像診断における画期的な発明となったのです。

 このCTスキャン装置を最初に開発したのは英国人のゴッドフリー・ハウンスフィールドで1967年に考案し、1972年になって英国EMI社から世に送り出されたことになっています。しかし、それより20年も前、コンピューターがまだなかった1946年、今のCTと同じ考え方でX線断層写真の撮影方法を開発していた日本人がいました。それは当時、東北大学医学部で放射線研究室の助教授(現在でいう准教授)であった高橋信次です。

 CTスキャンの原理は身体の各方向から撮影したX線写真をコンピューターで解析して一つの断層画面を構成し1枚のCT画像に合成するものです。しかし高橋信次が手掛けた断層写真の時代にはコンピューターは存在しませんでしたので、全周囲から撮影されたX線写真を記録媒体として保存し、一枚の画像としてアナログ的にフィルムに焼き付けたものでした。身体の全周囲からX線投影装置を回転させてそれに応じて回転するフィルムに記録していくもので、X線回転横断撮影装置と呼ばれていました。第二次大戦末期から終戦直後にかけての物資が不足していた時代にこのような新規の方法とそれを実現する装置を作り出していたことを考えると、まさに画期的な新発明であったことでしょう。

 CTスキャンの開発者とされるハウンスフィールドは1979年、その功績によりノーベル生理学・医学賞を受賞しています。しかしその開発より20年も前に同じ原理で断層撮影装置を完成させていた高橋信次はノーベル賞を受賞していません。業績の報告が遅れたためともいわれていますが、現在の事情と比べても残念なことだと思います。