医療あれこれ

肺炎の予防接種

 以前にご紹介したように日本人の死因は第1位がガンなどの悪性新生物、第2位が心疾患、そして、これまで脳血管障害が第3位でしたが、2年前より肺炎となっています。そしてその肺炎の原因菌として最も頻度が高いのは肺炎球菌です。(http://www.suehiro-iin.com/arekore/etc-disease/post_17.html)

 Streptococcus_pneumoniae.jpg肺炎球菌は1881年、フランスの化学者ルイ・パスツールによって単離されました(左の写真)。肺炎球菌は肺炎を引き起こすのはもちろんのこと、中枢神経の致死的感染症である髄膜炎の原因菌ともなります。幼小児や高齢者は肺炎球菌感染症が重症化してしまうことがあるので予防が大切です。

 2014年の10月から、高齢者に対して肺炎球菌のワクチンであるニューモバックスNP23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン)の定期接種が可能となり公費助成が行われることになりました。このワクチンは93種類ある肺炎球菌の血清型のうち23種類の血清型に効果があります。また、この23種類の血清型は成人の重症の肺炎球菌感染症を引き起こす原因菌の多くを占めることから、80%以上に予防効果があるとされています。ただ有効である期間は5年間であることや、連続して接種するといろいろな副作用が発現しやすくなることから、現在のところ65歳で1回接種し、2018年度までの5年間は70歳、75歳と5歳きざみで接種することになっています。

 一方、小児の肺炎は、肺炎球菌のような一般細菌より、マイコプラズマという別の病原体であることが多く、細菌性肺炎としては、インフルエンザ菌が多いとされていますので事情は異なります。

 なお念のため説明しますと、インフルエンザ菌とは、インフルエンザを引き起こす菌ではありません。インフルエンザの病原体はインフルエンザウイルスであり、インフルエンザ菌の感染症ではありません。一般にウイルスは細菌の10分の1以下のサイズであり細菌とウイルスは全くことなるものです。ではなぜインフルエンザを引き起こすものではないのに、インフルエンザ菌というややこしい名前がついているのかというと、昔、顕微鏡でウイルスが観察できなかった時代にインフルエンザという病気の人は何が原因で発病するのか解りませんでした。ある人が、インフルエンザを発症している人の咽頭から新しい細菌を発見し、それがインフルエンザという病気の原因菌だと考えたことからインフルエンザ菌という名前がつけられたのです。しかし、その菌はインフルエンザの原因ではなくインフルエンザの人にたまたま細菌の混合感染があってその菌が存在したのではないかと考えます。

 インフルエンザ菌のうちインフルエンザ菌b型(Hib:ヒブ)は幼小児に肺炎のほか重症の髄膜炎を引き起こすことから、2歳未満の乳幼児にヒブの予防接種が推奨されています。また肺炎球菌のワクチンは成人とは異なり13の血清型に有効な混合ワクチンが認可されています。

 いずれにしろワクチンで肺炎の発症予防をすることは重要で、成人のワクチン接種は当院でも実施しておりますので、接種を受けて下さい。