医療あれこれ

医療のあり方~根拠に基づく医療

 病気の診断や治療など医療は何を根拠に行われるのでしょうか。最終的にはその患者さんを担当する医療者が状態を判断して、実際の医療を行うことになるのですが、その判断の根拠が確かなものでなければなりません。

 例えば一人のベテラン医師がある患者さんを診療するとします。その時、「私の長い医療職者としての経験からすると、この症例はこうであることに間違いはない」と考えて実際に医療を行ったとします。ほとんどは、この判断で誤りではないことが多いのですが、中にはその担当医療者の誤った考え方や勘違いなどがないとは限りません。そうすると、その患者さんの病気は最もよい経過をとることはなく、病状が悪くなって治るまでに必要以上の時間がかかったり、場合によっては治らないという結末になってしまいます。また経験の浅い医療者が診療するときには、その「長い経験」がないものですから、いったい何を根拠にすればよいのか迷うことでしょう。昔の医療はだいたいこのようなものでした。患者さんにとっては、これでは本当に適切な治療を受けることができません。

 現代の医療は、「根拠に基づく医療」が基本です。英語で言うと、根拠=Evidence、基づいた= Based、医療= Medicine、つまりEvidence Based Medicine、この頭文字をとってEBM(イー・ビー・エム)といいます。1990年代ごろアメリカやイギリスからこの考え方が普及してきました。

臨床における根拠(エビデンス;Evidence)は理論的な考え方や基礎的実験結果ではありません。実際にあった多数の症例で検証して得られた結果を解析したものです。理屈では予想されることでも、それが本当に実際の症例にあてはまるのかどうかまで検証することが求められます。机上の空論ではだめなのは当然のことです。昔の日本の医療はドイツ医学を基本としていました。ドイツでは実験的理論を中心にした考え方が基本で、臨床的に実際の症例を詳しく観察した考え方のアメリカやイギリスとは少し違っていました。そのため日本においてEBMの考え方が普及するのに少し時間がかかったのです。

 さらにその根拠(エビデンス)は、大多数の症例を対象にしたものでなければなりません。例えば、ある1つの治療法を数人の患者さんに試して成功したとしましょう。しかしその結果は、たまたまその数人の人に有効であっただけかも知れません。10人ぐらいならどうでしょう。たとえ10人全員に有効性が認められたとしても、11人目、12人目には無効であるという結果がでたら、その医療法の有効率はどんどん低下していく結果となってしまいます。百人より千人、千人より1万人を対象にして確かめた方がより確実な結論を得ることができるでしょう。ですからよい根拠(エビデンス)を得るためには大多数の症例を対象とした「大規模臨床試験」が必要なのです。

 ちなみに今流行りの健康食品やサプリメントの多くはこのような「大規模臨床試験」で得られた根拠のもとに生産されたものではないため、効能書の内容が本当に正しいのかどうか解らないこともある点に注意することが必要です。