医療あれこれ

エボラ出血熱

 感染すると7080%の致死率となるアフリカ由来のエボラ出血熱が世界中に流行するかもしれないと報道され、世間が騒然となっています。エボラ出血熱は日本の感染症に関する法律(感染症法;感染症の予防及び感染症の患者も対する医療に関する法律)においては、危険性が極めて高く感染者は指定医療機関への隔離入院が必要である1類感染症に分類されています。

 もともとはアフリカ大陸の限定された地域に存在するエボラウイルスの感染が原因で、地域住民で感染がおこることから、いわゆる風土病とされていたものです。しかし交通手段が発達し、今までになかった規模で人や物が国境を自由に越えて行き交うなか、これらの病気が世界中に広がり初めてきました。歴史的にみても、同じように人が自由に行き来できるようになると今までになかった病気が拡大してくることが多くみられます。例えば古くは、アメリカ大陸を発見したコロンブスの探検隊員が、原住民の持っていた性病である梅毒をヨーロッパに持ち込んだ可能性があるという話は有名です。また限定された地域にあり、感染して放置すれば免疫不全症(エイズ)を発症するヒト免疫不全ウイルス(HIV)が世界中に拡大してしまったことなど、交通手段の発達が新たな感染症の問題を引き起こしてきました。

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 エボラ出血熱の話に戻りますが、この病気はエボラウイルス(右の図)の感染があり、最大3週間程度の潜伏期間を経て発症します。進行すると激しい下痢や嘔吐が現れ、それらに血液が混ざってショック状態に陥り死に至るものです。今回問題となっているのは4種類あるエボラウイルスのうち、最も毒性の強い種類のものだそうです。現在、このウイルスに対する抗ウイルス薬やワクチンはありません。

 感染経路は、インフルエンザのように空気中から感染することはなく、感染者の体液、吐物、下痢便などから感染するもので、これらに直接触れない限り感染することはありません。しかし患者が多く発生しているアフリカの地域は、政情が不安定で病気への対応が難しく、現地住民の感染症に対する知識も不足しているため、流行が収まらないのではないかと国立感染症研究所は述べています。またこれまで発熱や出血が注目され、エボラ出血熱という病名が付けられていますが、実は激しい嘔吐や下痢などで高度の脱水に陥り死に至るのではないかともいわれています。世界保健機関(WHO)はエボラ出血熱という病名を使わず、エボラウイルス感染症(EVD)という呼称を使っています。脱水であれば、十分な点滴で水分やナトリウム、カリウムを補給すれば救命率が上がる可能性がありますが、患者の多発地域ではっこれらの医療的処置ができていないのが現状だそうです。

 マスコミで大きく扱われ、必要以上に不安を抱く人がありますが、正しい情報に基づいて行動することが重要です。

文献:日経メディカル、20148月号、P.42