医療あれこれ

平均寿命より健康寿命が大切

 ご存知のとおり厚生労働省の発表では、2012年の日本人女性の平均寿命は86.41歳で世界第一位、男性も79.9歳でこれまでの最長になったそうです。2011年は東日本大震災の影響で短縮したけれどもそれが回復傾向にある、非常に喜ばしいことであると報道されています。

 しかし平均寿命が延びることが本当に人類にとって単純に喜ばしいことでしょうか。平均寿命は生きている人の全てを対象として算出されていますので、この中には意識がない、人工呼吸器を装着している、あるいは自分で摂食できないためチューブ栄養を続けている、などすべての人を含んでいます。ともかく少しでも寿命を延長させたいなら、あらゆる手段を用いれば平均寿命はさらに延長するでしょう。しかしそれが本当に正しいのか、医療器具を用いて生きながらえさせていることで、その人の人間としての尊厳を保っているのか、と考えるとはなはだ疑問が残ります。

 一方、大病にかからないで普通の日常生活を送ることができる期間のみを示しているのが健康寿命です。これには寝たきりであったり、集中的医療によって生存している人などを含みません。つまり平均寿命は健康寿命プラス病気の期間、ということになります。平均寿命と健康寿命のどちらが人類にとって大切か、というと言うまでもなく健康寿命です。

 ただ健康寿命を算出するにあたって「健康である」というのは、日常生活が自立している、つまり何でも人の世話にならず、もちろん医療器具の世話にならず、日常生活をこなしていることです。つまりその人が「自分は健康である」と自己申告して、その数を集計していくわけです。ですから健康寿命というのは平均寿命のように画一的に算出できるものではないと思います。

 いずれにせよ平均寿命を延ばすより、健康寿命を延ばすことがはるかに大切で、そのためには病気の期間を少しでも短くすることが重要です。高齢者の生活や病気を研究する「老年医学」という学問分野がありますが、この学問の究極の目標は、全ての人が少しでも病気の期間を短くすることです。「健やかに老い、天寿を全うして死を迎える」ことができるように精進することが、全ての医療人に求められていることだと思います。