医療あれこれ

バセドウ病と不整脈

 これまでに何度かご紹介していますように、代表的な甲状腺ホルモン過剰症にバセドウ病という病気があります。甲状腺ホルモンは体の代謝を高め精神神経を調節するホルモンですからバセドウ病になると体がやせてくる、暑がりでよく汗をかく、動悸がする、手が振るえる、イライラするなどの症状が現れます。

 これらの症状のうち、動悸がする(胸がドキドキする)という症状は、甲状腺ホルモンの心臓や血管への甲状腺ホルモンの作用でおこります。甲状腺ホルモンにより心臓の収縮力が高くなることから、上の血圧、つまり心臓が収縮したときの血圧(収縮期血圧)は上昇する一方、全身の血管抵抗性が低下して下の血圧、つまり心臓か拡張した時の血圧(拡張期血圧)は逆に低下します。このことから上下の血圧の差が大きくなり、動悸を感じるようになるのです。

 心臓が収縮したり拡張したりしているのは、心臓の筋肉が電気刺激を受けることによるものですが、この電気刺激の伝導系に対して甲状腺ホルモンは刺激を強める作用があります。そこで甲状腺ホルモンが増加すると、心臓の拍動数が速くなり、頻脈になってきます。さらにこれがひどくなると、心房が細かくけいれんするように震える現象がおこります。これは不整脈の一つで心房細動と言われるものです。最近の報告では、はっきりした甲状腺ホルモン過剰症ではなくても、つまりホルモンが少しだけ多めの状態「潜在性甲状腺機能亢進症」でも、この心房細動という不整脈のリスクが高くなるとされています。(文献:BMJ 2012, 345, e7895

 ところで心房細動では、左心房の中で血液の流れが乱れて固まりを作る、つまり血栓が形成されることがよく見られます。下の図をご覧下さい。この左心房内の血栓は、やがて左心室から動脈に流れ出して血管をつめてしまう塞栓症をおこします。脳の動脈にはこの血液の固まりが流れ込みやすいので、脳血管が閉塞し脳梗塞をおこします。これは心臓が原因で脳の塞栓症がおこったものなので「心原性脳塞栓症」といいます。

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 少し話がややこしくなったかも知れませんが、甲状腺ホルモンがわずかでも多いと、心房細動という不整脈がおこり、さらに脳梗塞を発症してしまう可能性があるといえます。