医療あれこれ

再生不良性貧血の新しい治療

 貧血は、赤血球に含まれ酸素を運搬する働きのあるヘモグロビンが少なくなっている状態です。このため全身で酸素欠乏になるため、動悸・息切れの症状がみられ、脳の症状としてめまい・ふらつきがおこります。最も多くみられる貧血は鉄欠乏性貧血です。赤血球は骨髄で作られますが、ヘモグロビンの原料となる鉄分が不足するため赤血球のサイズが小さい状態となるのです。今回の話題である再生不良性貧血は、骨髄での赤血球生成が低下しておこる貧血です。発症頻度は鉄欠乏性貧血に比べて少なく、2006年の厚生労働省調査では患者数は全国で約11,000人とされています。

 再生不良性貧血は骨髄での造血が低下していることから、赤血球だけでなく、白血球も血小板も低下しています(これを汎血球減少といいます)。このため臨床症状は赤血球が少ないことによるめまい・ふらつきや動悸・息切れなどの貧血症状の他、白血球が少ないことによる感染症などによる発熱、血小板が少ないことによる出血傾向などの症状がみられることが特徴です。

 では再生不良性貧血における骨髄造血機能低下がおこる原因は?というと、抗ガン剤や抗生物質などによる薬剤性や、放射線照射によるものなど明らかな原因がある二次性再生不良性貧血や一部遺伝性のものもありますが、多くは原因疾患などが明らかでない特発性再生不良性貧血です。自己の免疫が自己の身体を攻撃する自己免疫の機序が考えられています。

 治療はというと、骨髄の造血を刺激するステロイド系の薬剤や、自己免疫機序を制御するための免疫抑制剤がありますが、効果が明らかでない場合は骨髄移植治療が必要になります。最近は、骨髄の血球生成を促す造血因子関連の薬剤が用いられるようになりました。造血因子は赤血球を増やすエリスロポエチン(EPO)、白血球を増やす顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、さらに血小板を増やすトロンボポエチン(TPO)が単離されていますが、このうちTPOは血小板だけでなく赤血球も白血球も増やすことが判ってきました。再生不良性貧血における病態解析で、体内で生成されているTPOの血液中濃度は正常人より高いことが知られており、この内因性TPOを有効に作用させると再生不良性貧血の状態改善が期待されます。そこで開発されたのがTPO受容体作動薬で、簡単にいうと再生不良性貧血において血液中に増加しているTPOを効率よく作動させる薬剤です。すでに20178月から使用が可能となっていますが、高齢者にもみられる再生不良性貧血などこれまでの薬剤に多くみられた副作用を抑止する意味からも今後の有効な治療成績が期待されます。

文献:日経メディカル9201948-49.