医療あれこれ

猪肉の効用は?

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 今年は亥年(猪年)です。最近は神戸の近郊で住宅街に野生の猪が出没して問題になったりしていますが、昔は猪というと山奥で出現するものでした。兵庫県では篠山での猪が有名で、ボタン鍋つまり猪鍋が食べられる店があります。

 江戸時代には獣肉食が禁止されていましたが、山間部では猪肉は食べられていたそうです。触感が鯨に似ていることから山鯨(やまくじら)と言われて、滋養強壮によい食材とされていました。猪肉を牡丹の花に似せて皿に盛りつけることからボタン鍋といわれるようになったのです。

上方落語に「池田の猪買い(ししかい)」という前座ばなしがあります。大阪の丼池(どぶいけ)に住む一人の男が、近ごろ冷え気が持病になってこれを癒すために、新鮮な猪肉を買いに行くはなしです。大阪の街中では新鮮な肉が手にはいらないから、池田まで出かけ、山猟師の六太夫さんの猪猟に付き合った末に猪肉を手に入れるというのです。池田というと兵庫県池田市、阪急電車の宝塚線で梅田から20分で着きますが、明治の初めは行き帰り一日がかりだったのでしょう。あっちで尋ね、こっちで尋ねて淀屋橋、大江橋、蜆橋を過ぎ、お初天神から十三の渡し、三国の渡しを越え、服部の天神さん、岡町から池田にたどり着いて六太夫さんに出会うはなしがおもしろおかしく描かれています。

ところで、このはなしの登場人物における体の不調は「冷え気」で、このため体のあちこちが痛いう設定になっています。冷え気とは、今でいうと冷え症、または冷え性で手の先や下半身の冷感が主訴ということになります。しかしこの時代の冷え気は今と違って、性病一般をさすのだと亡くなった桂米朝さんの著作に述べられています。この登場人物も「体が痛い」と訴えていたので性病のうちでも淋病をさすのだそうです。性感染症の淋病が猪肉を食べて治癒するとは思えませんが、体を温める効果はあるのでしょう。篠山では「シシ食うてぬくい」という言葉があるそうで、体が温まると同時に精力がつくとされています。そうすると猪肉の効用は体を温めるよりむしろ精力をつけるという意味で淋病にも効くとされていたのでしょうか。

 それはともかくとして、寒い季節、温かい鍋物は体を温めますので、ボタン鍋を一度ためされてはいかがでしょうか。豚よりも猪のほうが温まるそうですよ。